OTHER 2023.01.11

"この道を自転車で走ってみたい!"
九州の離島にある絶景道5選

「この道を走ってみたい!」-----理由は単純ですが、自転車旅に出るきっかけとしては十分です。ダイナミックな海辺の地形と、時間ごとの色彩変化に富む離島の道。今回は、筆者お気に入りの九州離島から、選りすぐりの絶景道をご紹介します。

土庄 雄平
(トラベルライター)
商社・メーカー・IT企業と営業職で渡り歩きながら、複業トラベルライターとして活動する。メインテーマは山と自転車。旅の原点となった小豆島、転職のきっかけをくれた久米島など、人生の岐路にはいつも離島との出会いがある。
走りたい道が旅をするきっかけになる自転車旅

ロードバイクやクロスバイクで自転車旅を楽しむようになると、旅の計画の立て方がまるで変わってきます。通常の旅行でスルーしがちな、移動に重点を置くようになるのです。点と点の目的地をつなぐ旅程とは異なり、「自転車に乗って走る”線の時間”をいかに充実させるか?」が一つの大事な指標に。旅先に走りたい道があることが、自転車で旅に出るモチベーションになってきます。

景色変化に富んだ離島の道

言わずもがな海から山へ地形変化に富んでいる日本。日本百名道をはじめとして、個性豊かな道が全国各地に存在します。その中でクローズアップされることは少ないのですが、筆者の中で一際印象に残っているのが、九州離島の道です。島一つ一つに存在感があり、美しい海と緑豊かな山を眺める走りごたえのある道が多数存在します。ともすると、少し過酷な面もありますが、その島ならではの個性をストレートに伝えてくれる道ばかりです。

【屋久島】西部林道
世界遺産を駆け抜ける未開の道

世界遺産・屋久島を一周する県道77号・78号線のうち、永田地区と粟生(くりお)地区をつなぐ約20kmの区間は、西部林道と名付けられています。林道自体が世界遺産に指定されているとても珍しい道です。周囲に民家や自動販売機といった人工物が一切なく、ただひたすらに屋久島の未開の自然が広がっています。

日本最多の年間降雨日数を誇る屋久島。屋久島一周に自転車でチャレンジすると、雨に見舞われることもしばしば。アップダウンが連続する地形のため、体力と気力が求められる道であり、雨の中でも諦めず自転車を漕ぎ続ける覚悟が必要です。かなり消耗が激しいストイックな道ですが、走り抜けた時の感動と達成感が忘れられません。

曲がるたびにヤクシカやヤクシマザルに出会えるので、少し気が紛れます(笑)反時計回りで走ると、栗生に至るロングダウンヒルで屋久島の圧倒的な自然と空気感を感じられるはず。

【天草諸島】天草パールライン
九州の多島美を楽しむ海道

日本百名道の一つにも選ばれている「天草パールライン」。宇城市三角から上天草市合津まで5つの橋で結ばれた約17.5kmの観光道路です。通称、天草五橋とも呼ばれており、九州随一の海道として高い人気を誇っています。見どころは、個性豊かな橋と海峡の風景です。

日本で初めてパイプアーチ式を採用した松島橋(5号橋)や、アーチを描くベージュ色の大矢野橋(2号橋)など、独特の造形美を見せる橋を一つ一つ渡りながら、島原半島まで広がる有明海と、天草ならではの多島美を望みます。磯の香りが鼻腔をかすめ、涼しげな潮風が吹き抜ける風光明媚なサイクリングルートです。

ハイライトは3〜5号橋まで連続するラスト区間。景色の変化を楽しみながら橋の上を快走していきましょう。途中には、ぶっかけうに飯で有名な「海鮮家 福伸」さんなど、海鮮グルメの名店に立ち寄れるのも魅力の一つです。

【若松島〜日島】県道169号線
五島列島最果ての知られざる道

九州の西の最果てにある五島列島。世界遺産に登録されている祈りの島は、名前のない絶景道の宝庫です。筆者イチオシの道が、若松島から日島(ひのしま)まで約15km続く県道169号線。若松島の入り組んだ海岸線を走ったのち、4つの島をアイランドホッピングすることができます。

そこに待っているのは、圧倒的に美しい海。紺碧色の海から、エメラルドグリーンの海まで、ペダルを漕ぐごとに海の色が変わっていきます。特に、道を走り終えた先に広がる、日島周辺のターコイズブルー色の海の鮮やかさが今でも脳裏に焼き付いて離れません。

少しディープな観点ですが、漁生浦島(りょうぜうらがしま)から日島の区間には、堤防道路が採用されています。島民の悲願だった防波堤と陸路を一石二鳥でまかなう目的で建設された、全国的にも珍しい構造物です。

【奈留島】県道168号線
島旅の旅情薫る絶景シーサイドロード

同じく五島列島から、もう一つおすすめしたい道が、奈留島の中心をV字型に走っている県道168号線です。他の島に比べて、奈留島の海岸線は起伏が落ち着いており、距離も短いため、のんびりと自転車旅を楽しむことができます。

平坦な道に沿って防波堤が続いていく道は、まるで瀬戸内の海道を彷彿とさせる絶好のシーサイドロード。島のダイナミックな地形に囲まれて、透明度の高い海が思いっきり広がります。その風景を駆け抜ける時間は、筆舌に尽くしがたい爽快感です。また、この道を通り抜ければ、「あぁ島を旅しているんだ...。」と、非日常感と旅情が高まること間違いなし。

道の途中には、世界遺産の構成資産の一つ「江上天守堂」が佇んでいます。まるで物語の中に出てきそうなメルヘンチックな雰囲気を醸し出している可愛らしい教会堂は必見です。

【桜島】桜島展望道路
火山島の最高所を目指す山岳スカイライン

鹿児島県のシンボル・桜島の南西部を走る約9.5kmの「桜島展望道路」。火山活動により桜島の最高峰・御岳(おんたけ、標高1117m)は立ち入ることができないのですが、この道を使えば、その4合目である湯之平展望所までアプローチすることができます。南側から西側へ通り抜けるのがおすすめです。

特徴は、まるでRPGの世界に迷い込んだと錯覚させるダイナミックな景観です。南側のスタートのワインディングを駆け上がり、中間ポイントに差し掛かると、御岳を目掛けて真っ直ぐに上っていくストレートが続きます。同時に、この辺りからアスファルトが赤茶色になっていることに気づくはず。これは火山灰が降り積もった影響によるものです。

一方で西側は、錦江湾へダイブしていくような爽快なダウンヒル。最後の最後まで桜島らしい大迫力の地形を味わうことができますよ。標高200m~300mの高さとは信じられない、第一級の山岳道路の雰囲気を備えています。

名前のない”瞬間に絶景道”を見つけるという喜びも

「この道自転車で走りたい!」この気持ちが自転車旅のモチベーションになる一方で、旅をしている最中に、思わずペダルを止めてしまうような絶景道に出会えることがあります。その名も”瞬間の絶景道”です。夕日が作り出すノスタルジックな道から、真っ青な海を見渡す爽快な道、渓谷をダイナミックに降りていく道など。あまり知られていないけれど、島のポテンシャルの高さを伺わせる道に出会えることも多いです。こうした道(未知)との一期一会が、より旅の充実度を高めてくれるのではないでしょうか。