
長崎の産業遺産を巡る。軍艦島クルーズと高島・伊王島自転車の旅
日本の近代化において重要な役割を担った地「長崎」。その発展を支えたのは、離島の存在でした。現在も軍艦島をはじめとして、かつて炭鉱として栄えた島々に船で渡ることができます。今回は、近代日本の軌跡を訪ねて、長崎周辺の離島を巡る旅をご紹介します。
長崎港から船で渡れる島々の中でも、最も有名なのが「軍艦島」です。この島は、かつて炭鉱で栄えた無人島で、正式には端島(はしま)という名前ですが、その外観が軍艦のように見えることから、軍艦島と呼ばれるようになりました。最盛期には東京都の18倍もの人口密度を誇り、近代化が急速に進んだこの島は、今でもその歴史的価値が高く評価されており、世界遺産『明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業』の一部として登録されています。
現在、軍艦島への渡航は制限されており、認可されたツアー会社の船でのみ上陸が可能です。島に上陸すると、廃墟となった建物が立ち並び、かつての繁栄ぶりを物語っています。保存が難しく、台風が通過するたびにその景観が変わる軍艦島。保存が難しく、台風などの自然の影響で徐々に変化しているので、今の姿を目にできるチャンスは、訪れたその瞬間だけかもしれません。





軍艦島の隣に位置する高島もまた、日本の近代化に重要な役割を果たした島です。人気の軍艦島クルーズでは、軍艦島と併せて高島にも立ち寄ることができますが、島内をしっかり見て回りたい方には、長崎港から高速船でのアクセスがおすすめです。島ではレンタサイクルも利用可能ですが、筆者は自分のロードバイクを持参して、高島を巡りました。
高島に到着して、まず訪れたいのは「北渓井坑跡(ほっけいこうあと)」。江戸時代、佐賀鍋島藩とグラバー商会による共同出資により炭鉱開発がスタートした場所です。蒸気機関を使った最新技術で採掘が行われ、明治期の殖産興業へとつながる重要な炭鉱となりました。坑跡の近くには、炭鉱設備や労働者たちの住居が密集していた区画や、グラバーの別邸があった場所もありましたが、今ではその面影は残っていません。もし後者が残っていれば、第二のグラバー邸として有名になっていたかもしれませんね。
続いて、高島の最高所にある「権現山公園」へ向かいましょう。展望台からは、島のあちこちに点在する白いマンションが見えます。これらは、炭鉱が稼働していた時代に、人口密度の増加に対応するために建てられた炭鉱労働者の集合住宅です。展望台へ向かう途中、空き地となっている場所は、かつてこれらのマンションが立ち並んでいた跡地で、最盛期には数十棟ものマンションが建っていたと言われています。かつて高島炭鉱が誇っていた生産能力のスケールを物語っていますね。
次に、島の最南端にある「軍艦島の見える丘」へ足を運んでみてください。景色の開けた高台から、軍艦島を見渡すことができ、その雄大な姿はまさに圧巻です。軍艦島クルーズで見られる景色とはまた違った角度から、軍艦島の全体像を眺められるのが魅力です。軍艦島を目にしながら、過去の活気に満ちていたこれらの島々の姿と、現在の静けさを頭の中で交錯させつつ、炭鉱の島の栄枯盛衰を感じられる気がします。




長崎市南部に位置する「伊王島(いおうじま)」は、軍艦島や高島とは異なり、炭鉱としての歴史を経た後、漁業の島として生まれ変わりました。2011年には長崎本土と伊王島大橋で繋がり、陸路でのアクセスが可能になりましたが、船でのアクセスも引き続き人気があります。
伊王島に到着したら、ぜひ訪れてほしいのが「伊王島灯台」です。慶応2年に江戸条約によって設置された全国8箇所の灯台の一つで、日本初の鉄造六角形の洋式灯台として明治4年に点灯されました。近年では、2019年に放送されたアニメ『色づく世界の明日から』に登場し、アニメファンの間でも人気のスポットです。白亜の灯台と海が織りなす風景は、長崎有数の美しさです。
炭鉱と島が結びついた長崎周辺の離島は、全国でも極めて珍しい存在ですが、それらの離島へ向かう船旅もまた格別です。長崎港を出発して女神大橋を抜けるまでの間には、長崎の歴史を支え続けてきた三菱重工業の長崎造船所や、その敷地内にある世界遺産の一つであるジャイアント・カンチレバークレーンなど、日本の近代化に欠かせない風景を眺めることができます。女神大橋を過ぎると、町の風景は次第に消え去り、潮風を感じながら美しい自然の中を進む船旅が楽しめます。工業的な側面と、自然の美しさが絶妙に織りなす、長崎ならではの情緒を堪能することができるでしょう。


長崎市街から離れた場所にもある炭鉱の島へ
今回は軍艦島周辺の離島をご紹介しましたが、実は長崎市街から離れた外海(そとめ)エリアにもいくつか炭鉱の島があります。それが松島と池島です。中でも後者にある池島炭鉱が閉山したのはなんと2001年で、九州最後の炭鉱として知られています。現在、池島炭鉱は、電動トロッコに乗りながら元炭鉱マンにガイドによる体験ツアーを提供している、日本唯一のユニークな炭鉱施設となっています。軍艦島以外は、それほど知られていない長崎の炭鉱の島ですが、近代日本が歩んできた奥深い歴史を学べるのでぜひチェックしてみてくださいね。
