MOUNTAIN 2024.05.08

初心者から中級者まで。
離島の自然を楽しむ
全国各地の離島・4つの登山スポット

離島ハイキングから一歩踏み込んだ離島登山。穏やかで美しい海とは一線を画す、圧倒的スケールの天空の世界が広がります。今回は離島登山の魅力や楽しみ方を簡単にお伝えし、初心者から中級者向けに、おすすめ離島登山スポットをご紹介します。

土庄 雄平
(トラベルライター)
商社・メーカー・IT企業と営業職で渡り歩きながら、複業トラベルライターとして活動する。メインテーマは山と自転車。旅の原点となった小豆島、転職のきっかけをくれた久米島など、人生の岐路にはいつも離島との出会いがある。
離島の個性を物語る山。
実は島をはぐくむ母なる存在

海のイメージが強い島ですが、実は島の多様性を物語ってくれる存在こそ、山ではないでしょうか。日本の島には標高2,000mに迫る高山から、標高数100mの里山に至るまで、実に個性豊かな山が根付いています。その成り立ちを考えれば、山が島を作ったと言っても過言ではありません。また山がもたらす湧水は、農業に欠かせない水源となり、山麓の人々の生活に潤いをもたらします。そして同時に、その水が海へと流れ込むことで、島の周囲に好漁場が形成されるのです。まさに山と島は”母と子”のような関係性だと言えるのではないでしょうか。その神秘は、神話にも取り上げられています。その舞台とは、伊豆七島の一つ・神津島の天上山(てんじょうさん、標高572m)です。伊豆諸島の神々が天上山に集まって、水を配る会議をしたと伝わっています。

離島登山とは自分でも挑戦できる
「SEA TO SUMMIT」

近年『SEA TO SUMMIT』と呼ばれる環境スポーツイベントが開催されています。その名の通り、人力のみ(カヌー→自転車→登山)で海から山の上を目指すアクティビティです。自然の循環に思いを巡らせ、肌身で感じることがテーマとなっています。もちろんこうしたイベントに参加する魅力も大いにありますが、初心者の方にはハードルが高いのも事実。そこで離島での登山をおすすめします。海岸線から山頂まで自力で歩けば、これも立派なSEA TO SUMMITですし、先ほど少し触れたように、山の標高や難易度もさまざまなので、登山初心者から中級者の方まで自分に合わせて楽しむことができます。また島の山へ登り、下山後は麓でグルメや温泉、海の景色を楽しむ観光と組み合わせるのもおすすめです。それでは次に、私イチオシの全国離島の山を4つご紹介したいと思います。

天草諸島と有明海を一望する九州百名山。
上天草「次郎丸嶽」

まず初心者向けにご紹介したいのが、上天草市の「次郎丸嶽(じろうまるだけ、標高397m)」です。隣には太郎丸嶽(たろうまるだけ、標高281m)が連なり、兄弟峰として親しまれています。前半は整備された道が続き、ウォーミングアップがてら気持ちの良い森林浴を楽しみましょう。1時間半もすれば太郎丸嶽の山頂へ。壮大に立つ次郎丸嶽を一望することができます。いったん分岐に戻り、変化に富んだ登山道を歩くこと約40分。次第に視界が開け、アスレチックな岩場も登場します。少しスリリングで爽快なクライマックスが面白いです。そして次郎丸嶽山頂に到着すれば、海の向こうに島原半島と雲仙普賢岳(うんぜんふげんだけ、標高1,359m)の大パノラマが展開。山頂直下の亀次郎岩(ライオン岩)から眺める、天草諸島をとりかこむ有明海は、果てしなく美しく圧倒的なスケールを誇っています。

神話の世界とダイナミックな山上世界に出会う。
神津島「天上山」

次にご紹介したい山は、先ほど少し触れた神津島の最高峰「天上山(てんじょうさん、標高572m)」です。太古の火山活動により形成された山は、荒々しい地形と山肌をなし、どこか畏怖の念を抱いてしまう風情があります。天上山の登山口には黒島登山口と白島登山口の二つがあり、往路と復路でコースを変えられるのが魅力です。おすすめは白島の登り、黒島の下りという順序。なぜなら白島の方が登りやすく、黒島ではまるで海へ飛び込むようなパノラマ下山を味わえるため。そんな天上山の醍醐味は、山頂の一周コースです。山頂周辺には、低木帯や岩場、砂漠が広がっており、麓とは別世界。高台から海に浮かぶ伊豆七島も一望でき、まさに“神が集う”と言われても納得してしまう雰囲気を醸し出します。麓には神津島温泉保養センターや多幸湧水など、山の恩恵と言えるスポットが多いのも魅力です。

北限にたたずむ高山植物と森林限界の楽園。
利尻島「利尻山」

離島の山は低山(標高1,000m以下の山のこと)だけではありません。離島にそびえる高山の一つが、北海道利尻島の最高峰「利尻山(りしりさん、標高1,721m)」です。別名・利尻富士として親しまれ、利尻島全体を一つの山のように見せています。利尻北麓野営場から入山し、深い樹林帯を進んでいくと、約3時間で中腹にあるピークの「長官山(ちょうかんさん、標高1,218m)」に到着。森林限界(高い木々が生育できない限界の植生のこと)の山肌が広がり、利尻山の雄大さを物語っています。そして高山植物を愛でながら雲の上の世界へ。スタートから約5時間で山頂にたどり着くと、眼下に広がる北限の大パノラマや、利尻島固有種をはじめとするお花畑まで、言葉にならない感動的な光景が待っています。またレンタサイクルが人気の利尻島。登山前後に、自転車で島を一周しながら、利尻山の湧水スポットを巡ったり、その湧水がはぐくむ利尻昆布を使った絶品ラーメンをいただくのもおすすめです。

縄文杉の先にたたずむ日本最南部の雪山。
世界遺産・屋久島「宮之浦岳」

利尻山と同じく離島の高山を代表する屋久島「宮之浦岳(みやのうらだけ、標高1,936m)」。縄文杉のさらに奥に位置している屋久島の最高峰です。一番メジャーな荒川登山口から往復約15時間と、日帰りは難しい標準コースタイムとなっています。私が訪れたのは3月上旬。冬でも暖かく南国というイメージの屋久島でしたが、山の上には雪が積もっていました。道中出会った霧氷(空気中の水分が過冷却で木々に付着する現象)が咲き誇る山肌の美しさが忘れられません。そして山頂が近づくごとに雪が増え、山頂まで辿り着くと、霧氷原の先に果てしない雲海が広がります。その様は、まさに洋上のアルプスと呼ぶにふさわしい荘厳な世界。世界遺産・屋久島のいただきに辿り着いた時の感動と達成感は今でも忘れられません。白谷雲水峡や千尋(せんぴろ)の滝、平内海中温泉など、屋久島の悠久の自然を物語るスポットが島内にはたくさんあるので、ぜひゆったりと時間を取ってみてください。

いかがでしたでしょうか。今回は離島登山の魅力と初心者向けから中級者向けの山までご紹介してみました。島の成り立ちや太古の自然に思いを馳せる離島登山。ぜひ身近な離島の山から登ってみては?