今、この瞬間の美味しさを求めて。三つの島旅で味わう旬の恵み
島々には、その瞬間にしか出会えない“旬のごちそう”があります。五島列島では濃厚な甘みが広がるウニを、日間賀島では冬に味わいたいふぐの白子焼きを、そして瀬戸内では出会いも楽しい紅まどんなを。それぞれの土地と季節が育んだ味覚を求めて、三つの島をめぐる旅へと誘います。
「五島列島」は、長崎県の西方、東シナ海に点在する大小150あまりの島々からなる美しい列島。中でも福江島・久賀島・奈留島・若松島・中通島の5つが主要な島として知られています。2018年には潜伏キリシタン関連遺産の一部として世界遺産に登録され、点在する教会堂が独自の歴史と信仰を今に伝えています。透明度の高い海と豊かな緑が織りなす自然も魅力で、手つかずの風景と静かな時間に包まれる、日本屈指の離島エリアです。
五島列島の食を語るうえで、やはり外せないのが海の幸、とりわけ高級食材として知られる「ウニ」です。なかでもこの地のウニが特別とされる理由は、その育つ環境にあります。対馬海流の恵みを受けた豊かな海には、栄養価の高い海藻が繁茂し、それをたっぷりと食べて育つウニは、雑味のない澄んだ甘みと濃厚なコクを兼ね備えています。ミョウバンなどを使わず、獲れたてをそのまま味わえるのも、産地ならではの贅沢です。
そんな極上のウニを気軽に楽しめるのが、若松島にある「民宿えび屋」。5月から6月末までの期間限定で味わえる予約必須の「ウニ丼」は、無添加のままのウニをたっぷりとご飯にのせた、贅沢な一杯です。ひと口頬張れば、磯の香りとともに、濃厚でやさしい甘みがふわりと広がり、思わず表情が緩みます。これほどのクオリティでありながら、並盛が2,000円前半という価格設定も驚き。さらにウニの量を2倍にできる倍盛(4,000円前半ほど)なら、その魅力を余すことなく堪能できます。
「日間賀島」は、三河湾に浮かぶ小さな離島です。知多半島の先端・師崎(もろざき)から高速船で約10分とアクセスも良く、気軽に訪れやすいのが魅力です。島は“タコの島”として知られ、名物のタコ料理をはじめ、新鮮な海の幸を堪能できるのも大きな楽しみ。個性豊かな宿が点在し、海を間近に感じながらゆったりと過ごせるのも特徴です。コンパクトながら魅力が凝縮された、週末旅にぴったりの離島です。
一方で、冬の味覚・ふぐの名産地としても知られています。この島で提供されるのは、主に伊勢湾や三河湾で水揚げされる「天然トラフグ」。身はきゅっと締まり、ほどよい弾力と上品な甘みが際立ちます。てっさ(ふぐ刺し)は透き通るほど薄く引かれ、口に入れた瞬間に繊細な旨みが広がります。てっちり(ふぐ鍋)は出汁の奥行きが深く、締めの雑炊まで余すことなく楽しめるのも魅力です。
日間賀島でふぐを語るなら、ぜひ味わいたいのが「白子焼き」。冬に旬を迎えるトラフグの白子は、いわば“海のクリーム”のような一品です。新鮮な素材をシンプルに焼き上げることで、表面は香ばしく、中はとろりとした食感に。ひと口食べれば、ミルキーでコクのある旨みの虜になります。
日間賀島では、多くの民宿や旅館でふぐ料理のフルコースを提供しており、名古屋方面からのアクセスの良さも相まって、冬には“ふぐ目当て”で訪れるリピーターも少なくありません。なかでもおすすめは、家族経営ならではの温もりあるおもてなしと、落ち着いたしつらえが魅力の宿「島灯りの宿 とく川」。1日4組限定だからこそ、水入らずの時間をゆったりと過ごせます。さらに、地元の旬をふんだんに取り入れた料理は、料理人の粋な技が光る一皿ばかり。ここでしか味わえない贅沢を、心ゆくまで堪能できます。
「紅まどんな」は、愛媛県で生まれた高級みかんで、正式名称は愛媛果試第28号。ゼリーのようにやわらかな果肉と、口の中でほどける独特の食感が魅力です。外皮は薄く手でもむけますが、果肉が繊細なため、カットして味わうのが一般的。高い糖度にほどよい酸味が重なり、濃厚でありながら上品な甘さが広がります。旬は冬で、贈答用としても人気の高い特別なみかんです。
私がこの果実と出会ったのは、しまなみ海道を自転車で旅していたときのこと。大三島から岡村島へ渡る港の無人販売で手に取ったみかんを、船に揺られながら頬張ると、それがまさかの紅まどんな。ゼリーのような果肉の美味しさは格別で、感動したことを覚えています。
その夜、大崎下島の宿でその話をすると、「紅まどんなは愛媛県でしか手に入らないブランドみかん」だと教えてもらいました。どうしても手に入れたい——その一心で、愛媛に属する岡村島へと引き返し、島内を走り回ることに。やがてたどり着いた農家で、思いがけず格安で譲ってもらえる幸運に恵まれました。そんな一期一会の出会いもまた、忘れがたい思い出です。
とはいえ、実はそこまでしなくても、道の駅 多々羅しまなみ公園で気軽に手に入れることができます。筆者自身も後になって知り、しまなみ海道を訪れるたびに産直市場をのぞくのが恒例になりました。ただし、紅まどんなが並ぶのは冬の限られた時期のみ。訪れるタイミングだけは、しっかり押さえておきたいところです。