下五島―福江島・奈留島の教会を巡る3日間の旅
長崎県は離島の多い県で、なかでも五島列島は自然や文化の多様性に富み、北から南に点在する島々それぞれに魅力があります。2015年、五島市に属する最大の島・福江島と同市内にある奈留島を訪れました。
五島列島への行き方は色々あります。そして列島内での船の便も多く複雑です。船で行くには福岡の博多港や、長崎の佐世保港、長崎港などが挙げられます。今回は、長崎空港まで飛び、バスで長崎港へと移動、そこからフェリーかジェットフォイルで五島を目指しました。旅情を味わいたくてフェリーを選びましたが、船内に食堂はなく小銭もなかったため、水しか買えず空腹のまま過ごすことに。乗船前の昼食の準備は必須だと痛感しつつ、島影が近づく海を眺めながら4時間の船旅を過ごしました。それもまた、島旅ですね。
船は15時に上五島の中通島・奈良尾港に接岸し、結構な人と車が降りていきます。船はすぐに出港し、奈留島、久賀島のそばを通り、福江島の優美な鬼岳の姿を眺めつつ福江港に到着。港そばの「池田レンタカー」で予約していた車を借ります。愛想の良いお母さんとご主人が長崎弁で島の見どころを色々教えてくれました。さらに「そこん飲み物はサービスやけん持ってって!」「いいんですか?」「よかよか!」と二言目には「よかよか!」と返され、嬉しくなります。レンタカーを借りるだけなのに大分お店に長居してしまいましたが、もらった地図には目印や書き込み満載、心まで温まるやりとりでした。
車を借りて、福江港から西へ向かいます。島の中央部を貫く県道28号線は、「長崎県で一番長か直線の道路よ」とレンタカーのお母さんに教えてもらっていたとおり、確かに長くて真っすぐな道でした。
島の南西部、玉之浦町にある「井持浦教会」へ。もとは明治期創建のレンガ造り教会でしたが、1987年に建て替えられた現在の姿も風格があります。日本初の「ルルドの泉」が作られた教会としても知られています。
井持浦教会の近くからつづら折りの道を車で登ると、目的の大瀬崎の展望台に出ます。東シナ海の大海原に突き出た大瀬崎の上に立っているのが「大瀬崎灯台」です。日が暮れる前に間に合ってよかった。まるで灯台を置くためにあつらえられたような岬に、白い灯台が暮れゆく空の下で海を見下ろしています。しばらく眺めていたくなるこの灯台は、「日本の灯台50選」にも選ばれているそう。
旅2日目は雨。福江教会を訪れると、日曜ミサの真最中でした。観光地ではなく祈りの場であることを思い出します。1964(昭和39)年に起こった「福江大火」を免れた歴史もあり、地域の心のよりどころとなっている教会です。
続いて「浦頭教会」、そして五島初の洋風建築である「堂崎教会」へ。潮の引いた入江沿いの小径を行くと、レンガ造り・ゴシック様式の教会が見えてきました。1908(明治41)年に完成した堂崎教会は、教会建築の父とも呼ばれる鉄川与助と、師である野原与吉の施工で建てられました。一度改修を受けていますが今も当時の姿を残しており、漂う風格はさすがの一言。県の有形文化財にも指定されています。
現在は「堂崎天主堂キリシタン資料館」として、カトリックや潜伏キリシタンに関する資料を展示しています。「資料館」となっていますが、月に1回ほどミサが行われる現役の教会でもあるので、堂内の撮影は禁止。五島の教会はどこも基本的に内部の撮影は禁止されているので、訪れた際は注意が必要です。
その後に訪れたのは、民家のような趣きの「宮原教会」。小さな十字架がなければ通り過ぎそうな佇まいに、生活に根ざした信仰を感じました。続いて、「半泊教会」を目指しましたが、山道が細くて車では不安になり断念。次回の宿題です。
雨の中、岐宿地区の「楠原教会」へ。堂崎教会に次ぐ古い教会でレンガ造りの重厚さが印象的です。ここも鉄川与助の設計によるもので、イギリス積みのレンガ造りが堂崎教会とは違った重厚さを醸し出しています。入口に門番のように生えたヤシの木がなんだか可愛らしい。
近くの水ノ浦教会は白く優美な外観に、思わず見入ってしまいました。その美しさばかりに目が行ってしまいますが、五島の教会はかつて潜伏キリシタンたちが守ってきた信仰の証。禁教の高札が降ろされた後、自由に信仰できる喜びを象徴しているのだということを、忘れずにいたいものです。
北西にある「三井楽教会」は、正面のタイルモザイク画に茶碗や皿が混じる装飾が面白い。内部のステンドグラスとともに、個性あふれる教会でした。南へ下り、麦畑の広がる風景を抜けて、「貝津教会」へ。正面に小さな尖塔が載った木造の可愛らしい教会です。側面が西に向いているため、夕暮れ時にはステンドグラスを通して教会内は光が溢れ、素晴らしいとのこと。あいにくの空模様だったので、次回の楽しみに取っておくことにします。
福江島で訪れた教会は、思っていたよりバリエーションに富んでいて見応えがありつつも、今も信仰が息づいているのが印象に残りました。
旅3日目は、福江島の2つ北隣の「奈留島」へ。当時はまだ世界遺産登録前だった「江上天主堂」を目指します。福江港から五島旅客船のフェリーオーシャンに乗り、45分で奈留島に到着します。奈留島港ターミナル内の「奈留島港レンタカー」さんで原付を借り、江上天主堂へ。
ちなみに、江上天主堂の見学には事前に長崎本土の出島ワーフにある「長崎の教会群インフォメーションセンター(現在は長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター)」に連絡が必要です。実はこの時事前に連絡をしていなかったので、慌てて電話をしたのですが、別の団体が見学に来ていたので、それに混ざる形で中に入ることができそう、とのことでした。
奈留島港から原付で20分ほど、山を越えた廃校そばの林の中に、「江上天主堂」はありました。周囲を木々に囲まれ、近くの小川を流れる水の音が絶えず聞こえてきます。白かと思った壁は近づくとクリーム色でした。水色の窓が掛けられた小さな木造教会は、物語の中から出てきたような姿です。この教会も鉄川与助の設計・施工で、1918年に建立されました。林や川がある湿気の多い場所で、100年もこの姿を保っていることに驚くばかりです。
正面のドアをそっと開けて中をのぞくと、出島ワーフから聞いていた通り、すでに10人ほどが教会内にいて、おばあさんの教会守りが説明をしている最中でした。静かに後方に立ち、輪に加わります。説明が終わって団体が外に出ると、教会守りの方が「最初から説明しましょうか?」と声をかけてくださり、ありがたくお願いしました。
2018年で創建100年となる教会は、信者の方々がキビナゴ漁で貯めた資金で建てられたそうで、現在の価値にして1億円近くかかったとのこと。柱の木目が手書きであること、午前中に祭壇を照らす光がミサの時間を意識して設計されたらしいことなど、印象深い話が続きます。「ステンドグラスも手書きで色を付けているんですよ」と聞き、さらに驚きます。信徒の方々の思いが今でも感じられそうな堂内です。湿気対策として、通気口や高床式、雨樋を設けない工夫が施されていることも教えてくれました。江上天主堂は月に一度だけミサが行われ、普段はこの教会守りさんが鍵を管理しているとのこと。
団体が去り、教会内は静寂に包まれます。「ここにしばらくいていいですか、とおっしゃる方もいらっしゃいます。窓を開ければ川のせせらぎや木の葉の音だけが聞こえてくるこの教会が気に入って、しばらく座って過ごすんです」 僕もすっかり気に入ってしまって、椅子に座って何をするでもなく堂内の空気に浸りました。開けられた窓からは、川の音が静かな讃美歌のように聞こえていました。