福岡のネコと古墳の島、「相島」日帰りのんびり旅
福岡県は玄界灘に面し、9つの有人島を有しています。そのうちの1つで福岡市のお隣、新宮町の沖に浮かぶ相島は、ネコが多く暮らし、いつからか「ネコの島」として注目を浴びています。博多からアクセスしやすい島への、日帰り旅の記録をお届けします。
「博多から1時間くらいの新宮港から行ける島に、ネコがたくさんいるみたいだから行こう!」と福岡在住の友人から誘われたのは、別の用事で博多に滞在中のこと。思わず二つ返事で足を伸ばすことになったのが、福岡のネコ島「相島」でした。博多の中心・中洲川端駅から福岡市営地下鉄に乗り、西鉄貝塚線に乗り換えて西鉄新宮駅へ。駅前のロータリーで小さなコミュニティバスに乗り込み、20分ほどバスに揺られると「相島渡船場バス停」に到着です。
コンクリ造りの待合所で乗船券を買い、ひさしのある通路を歩いて桟橋へ。すると、ネコが1匹、下船した客を背後に引き連れて堂々と歩いてきます。「ツアーガイドかな……?」と思ってしまうほど、妙に風格があって思わず笑ってしまいました。
町営渡船「しんぐう」は、1階が客室、2階は操舵室とオープンデッキで、就航間もないためか、綺麗な船でした。せっかくなのでデッキで風に当たりながら出港を待ちます。定刻の9時20分、船はするすると港を離れ20分弱で相島港へ到着です。港に降り立ち、カメラを構えて「さあ来い! ネコちゃん!」と意気込んだものの、拍子抜けするほど気配がありません。肩透かしを食らいつつも、まずは港前の集落を歩くことにしました。
路地を進むと「朝鮮通信使関連遺跡群」の案内板を見つけて、「ああ、この島も大陸との往来の中継地だったんだ」と知ることになりました。「若宮神社」の立派な鳥居を仰ぎ見て「神社にはネコがいるはず」という根拠のない思い込みも外れ、またしても会えずじまい。海側の道から集落の奥へと続く道に入ると、ようやく1匹いました。「やっと会えた」としゃがみ込むと、人馴れしているのか逃げる素振りもなく、ひとしきり撫でることに成功。後ろからやってきた島のおばちゃんたちに気がつくと、当たり前のようにくっついて行ってしまいましたが、きっといつもエサをもらっているのでしょう。ネコと人の距離が近い島だな、と感じました。少し歩くと、赤い首輪が可愛い黒ネコにも遭遇。ゆっくりついて行くと、畑の中で遊び始める無邪気さが微笑ましい。
「海寶山護念院神宮寺」というお寺の前を通ると、キジトラと茶トラのネコが門番をしていました。何枚か撮らせてもらってから境内へ入ると、本堂は朝鮮通信使の資料館も兼ねていて、本棚に史料がずらり。海の道とともに生きてきた相島の記憶が、お堂の静けさの中に降り積もっているようでした。
ふたたび海沿いの道へ戻ると、茶トラが日向で目を細めていたので青空をバックに1枚。島の空気が体に馴染んでくるにつれて、こちらの「ネコを探すぞ」という気負いが薄れたからか、視界のどこかしらにネコを見つけられるようになってきました。
港へ戻る途中、なにかの店の前に「御自由にお持ち下さい」と書かれたカゴには、たくさんの甘夏。手に取って眺めていたら、店内からおばちゃんが出てきて「これで簡単にむけるから!」と、ミカンの皮むき器を実演付きで貸してくれました。島で採れた甘夏は小ぶりながらも甘くて実に美味しい。
甘夏を堪能していると、そばの看板に「愛の島(※)名物さわらのつみれ いかたこ入り 美味しいよ 1串200円」の文字が目に入ってきました。せっかくなので相島の幸をいただくことに。店の奥に声をかけると、中ではウニの殻むきをしている最中。漁で揚がったものをさばいたり、つみれやかき氷を売っているお店のようでした。甘夏のカゴの下には、いつの間にかネコが休んでいます。
(※相島は“愛の島”とも呼ばれています)
10分ほどで揚がってきたのは、熱々の「さわらのつみれの天ぷら」。この時知ったのですが、九州では揚げた練り物を「天ぷら」と呼ぶそう。揚げたてのサワラのつみれは中に入っているタコがプリッとした歯ざわりで素朴ながらも美味い。「ごちそうさま」と声をかけると、おばちゃんは剥いたウニを箱詰めしている最中で、「これもどうぞ!」と採れたてウニをひとかけらいただいてしまいました。外へ出れば、看板の陰にもまた白いネコが1匹。どこを見渡しても、力の抜けたのどかさが漂っていました。
港前まで戻り、渡船待合所の横にある「丸山食堂」に立ち寄りました。1階は食堂と土産、2階は小さな資料館。入口の黒板には、ネコと触れ合うときのお願いとして、あまりエサをやらないこと、と書かれていました。
お昼には少し早いのでまたあとで来ることにして、隣の相島購買店で日用品の棚を眺めてから、海沿いを北へ。岸壁には釣り人、空き地にはタコ壺。歩いていると向こうからネコが寄ってきます。釣り人のそばにも数匹、釣果のおこぼれをもらえるのを知っているのでしょう。みな毛並みがよく、ほどよくふっくら。釣り人のほうも慣れたもので、邪険にせずそのまま釣りを続けています。
港から東へ歩くと小学校があり、さらに先に行くと「相島積石塚群」の看板が立てられていました。低木に囲まれた脇の小径に入りしばらくすると、海を望む石の原が視界いっぱいに広がりました。想像していた規模と違いすぎて、思わず足が止まるほどです。赤く塗られた杭が点々と刺さり、それぞれが古墳の位置を示しています。1992(平成4)年の学術調査で、4〜7世紀の古墳群と判明、その数は254基にもなるのだとか。
方墳と円墳が半々で、竪穴や横穴などさまざまな形式のものがあるそうです。これら積石塚群は、その貴重さから国指定史跡となっています。広大な石の海岸には石で仕切られた見学路があり、奥まで歩くと積石塚群で1番大きな石積の円墳があります。発見時にはすでに盗掘されていたそうですが、中から見つかった土器は朝鮮半島との繋がりも示すものだと考えられています。朝鮮通信使時代の遥か昔から、大陸との中継地だったのでしょう。7世紀まで使われていたということは、1400年前にこの場所で石を積み上げた人々がいたのです。そう思うとロマンを感じずにはいられません。
海風を受けながら港へ戻る道すがら、たくさんのネコを見かけました。島には宿もあるようで、1泊すればのんびりした空気が存分に味わえそうだな、と考えながら歩いていると、時刻はすでに13時過ぎ。先ほど覗いた「丸山食堂」に入ります。壁のメニューには、うどん、海鮮ちゃんぽん、刺身定食、キス天ぷら定食、などいろいろ並んでいます。
さっき店の前を通った時に張り出されていた「うにご飯」が頭から離れなかったので、迷わず注文。島のウニを一緒に炊き込んだ香りのいいご飯に、地魚の刺身やかまぼこ付き。追加の刺身も頼みましたが、夢中で食べて名前を忘れてしまったのが悔しい。ちなみにこの食堂、土日営業かつ11〜17時と通しで開いています。島ではランチ難民になりがちなので、旅人からしても、とてもありがたいです。
午後になると、明らかに出歩いているネコの数が増えてきました。路地では、漁網の中で子ネコがうとうとしていたり、道の真ん中でくつろいでいる子や首輪のある子もいて、飼いネコと外ネコが混ざり合う風景もこの島ならではでしょう。
メインの通りから1本内側の道はちょっとしたたまり場になっていて、こちらが立ち止まると、わざわざ寄ってきて体をすりつけてくる子もいます。別の路地では、民家の開け放たれた戸の前にネコたちが陣取っているのが見えます。しばらくすると、さばいた魚のアラが中からぽいっと投げられ、ネコたちは喜んでくわえて去っていきました。いつもこうやってエサをもらっているんだろうな、と思えるひとコマでした。
気づけば16時の船に乗る時間となりました。日帰りでも十分に島を歩けてネコたちの姿を堪能することができ、満たされた旅となりました。歩くのにほどよい大きさと、人懐こいネコたち、想像以上の規模の史跡に、美味い海の幸。博多から近いのに島旅の醍醐味を味わえる相島。福岡に来たら、足を伸ばす価値があります。