OTHER 2025.04.23

神の島とニンジンの島をめぐるゆる島旅「久高島・津堅島」

11月のある日、沖縄本島の南東に浮かぶ久高島と東方の津堅島をめぐる2泊3日の旅に出ました。久高島は琉球神話の神アマミキヨが降り立ったとされる「神の島」、津堅島はニンジンの名産地として知られる「キャロットアイランド」。沖縄らしさと離島らしさをのんびり味わう旅の記録をお届けします。

井月 保仁 [いづやん]
(島旅フォトライター)
いづやんのペンネームで活動する島旅フォトライター。大学在学中に訪れた小笠原で島に魅了され、以後ライフワークとして日本の離島を巡り、島旅ブログ「ISLAND TRIP」にて旅の様子を書き綴る。島の魅力を伝えるべく、Webメディアや雑誌、イベントなどで活躍。有人離島182島を巡っている(2025年5月現在)
神の島・久高島へ

那覇空港に到着したのは朝の10時前。11月とはいえ、沖縄は半袖で過ごせる陽気でした。空港からモノレールに乗り、友人と途中で合流し、レンタカーを借ります。目的の久高島への船は、南城市の安座真港から出ます。港に到着したのは、出港10分前の11時20分。時間ギリギリで高速船に飛び乗ると、15分ほどで久高島に到着しました。空を見ると島の方には黒い雲が立ち込めていてやや不安を感じますが、これもまた島旅。

港に降り立つと、観光客たちは足早に集落の坂を登っていきます。自転車を借りようとしましたが、船の待合所の貸し出し分はすでに出払っていました。近くの「貸し自転車たまき」を訪ねると、ひとりで対応するおばぁが観光客の列をさばききれずに大わらわ。見かねた友人が手伝いに入り、なんとか自転車を借りることができました。

イラブーを食べる

昼時、港の坂を登った先にある「パーラーさばに」で昼食をとりました。沖縄そばや丼ものなどが並ぶメニューの中で、ひときわ異彩を放つ「イラブーそば」の名前。イラブーとは、エラブウミヘビのことで、琉球王朝時代から神聖な食材として重宝され、特に久高島では神事とも結びついていたそうです。

「ウミヘビが食べられるとは! これは注文するしかない」注文して出てきたイラブーそばは、いわゆる沖縄そばに黒く燻されたウミヘビの身が載ったもの。やや硬めの食感に、燻製の香りが立ち上る。見た目に反して臭みはなく、むしろ滋味あふれる味わいでした。メニューには「イラブーから作った汁をいただくと、半年は無病息災でいられる」と書かれていました。

神域や神話を感じながら集落を歩く

イラブーそばで無病息災を約束された後は、久高島の集落をぶらりと歩きます。石畳が敷かれた静かな道のそこここに御嶽(うたき)や拝所があり、神の島としての面影がそこかしこに感じられます。

「大里家(うぷらとぅ)」は島で最も古い家のひとつで、かつてこの家に住んでいた男女が島に流れ着いた壺を拾い、そこから五穀が琉球中に広がったという伝説が残っています。また、久高島の始祖伝説や尚徳王の物語が伝わる場所でもあります。さらに「イチャリ小(グヮー)」という家は、アマミキヨが仮住まいしたと伝えられ、シマグシナー(島造りの棒)を代々祀っているそうです。

集落の開けた場所にある「御殿庭(うどぅんみゃー)」は、かつて12年ごとに執り行われてきた祭祀「イザイホー」など、重要な神事が行われる場所。左には「タルガナー」と呼ばれ
るイラブーの燻製小屋、中央が「神アシャギ」、右が「シラタル宮」となっています。背後の森は「イザイヤマ」と呼ばれる聖域で、立ち入りが許されていません。ほかに人はおらず、ただ静かな空気が辺りを覆っています。毎月何かしらの祭祀が島のどこかで執り行われるそうで、島は今もなお「生きた祈りの場」なのだと感じました。

陸の海ぶどうと神話の岬

集落から北部の「カベール岬」を目指して自転車を走らせる途中、ビニールハウスのような建物の中に水槽が並んでいるのが見えました。中を覗くと、そこにあったのはなんと海ぶどう。まさか陸上で養殖されているとは知らず、驚きました。

道中には琉球開闢七御嶽のひとつ「フボー御嶽」など立ち入り禁止の神域が点在し、神の島であることを改めて意識させられます。やがてたどり着いた「カベール岬」は、琉球を創造した神・アマミキヨが最初に降り立ったとされる地。もちろん重要な祈りの場でもあります。ただ、そうと示す看板などはありません。今も日々祈りを捧げる場所だからと考えると、なぜだか辺りの空気も違ってくるように感じます。

夜の島と朝の光

「カベール岬」から戻る途中で東側の「イシキ浜」を歩いたり、集落内の商店を覗いて島のおじぃとおばぁが話している言葉がさっぱり分からなくて、逆に楽しくなったりしました。港近くの浜で夕日を眺め、定期船の最終便が出ていくのを見送ると、静かな島はより一層静けさに包まれていきます。

島での夕食は港の待合所そばの「食事処とくじん」で。悩んだ末、「ニガナ和え定食」を注文しました。苦みのあるキク科の葉・ニガナとキハダマグロの和え物が結構クセになる味で、なかなかイケます。定食の他に「島のもの天ぷら」も注文。さらに、泡盛にイラブーの燻製を漬け込んだイラブー酒をいただきます。スモーキーな香りが何か体に効きそうな感じがします。

翌朝、早く目が覚めたので、カメラを持って近くのピザ浜へ。水平線から昇る朝日を拝むことはできませんでしたが、海面を照らす光が神々しく、心に残る風景となりました。昨日は雨に降られましたが、この朝日で「また来い」と島の神様に言われている気がしました。

うるま市の島、津堅島へ

午前中の便で安座真港に戻り、次に向かったのはうるま市の平敷屋港。ここから津堅島への船が出るのです。14時のフェリーに乗り、30分ほどで島に到着。港には干した網と水槽が並ぶ風景が広がっています。これはもずくの養殖だそうで、「もずくも陸上で作ってるの!?」と驚きました。もずくは海中の天然もずくから種を採り、水槽に入れた養殖網で種付けを行い、その後海中の苗床に戻して育てるのだとか。11月はまさに種付けシーズン真っ盛り。津堅島のもずくは結構有名なのだそう。

宿に荷物を置かせてもらい、港から続く集落内にある商店「あずま」さんで、レンタルサイクルを借りて島を回ることにしました。「お店と自転車置場は別。港のコンテナにあるからそこから持ってって」とのこと。そんなところも島っぽいです。

港から西へ向かうと、鳩が見つけたと伝わる泉「ホートゥガー」があります。昔は飲み水として大事に扱われていたそうです。沖縄を旅していると、「ガー」「カー」と呼ばれる泉を見かけますが、水が貴重な時代を思い起こさせます。それは、ホートゥガーから坂道を登った先の広場にある「水道開通の記念碑」でも感じました。

キャロットタワーに驚き、浜で島のオフシーズンを感じる

広場から北に少し行くと、ちょっと変わった建物があります。島の名産ニンジンをかたどった「ニンジン展望台」です。津堅島は面積の半分がニンジン畑で、まさにキャロットアイランド。オレンジ色の展望塔は、外見もニンジンなら、中のベンチまでニンジンです。上からの見晴らしもよく、津堅島の平坦な地形が一望できます。ニンジンのシーズンは2〜4月ごろ。そのときは緑のパッチワークのような畑が見えることでしょう。

ニンジン展望台からさらに北上すると、津堅島随一のビーチ「トゥマイ浜」に出ます。白い砂浜と透明度の高い海が広がっていて、夏場なら賑わうのかもしれないですが、このときはオフシーズンで海には誰もいません。波の音だけが聞こえる浜辺を歩きます。日差しは和らぎ、風も心地いい。観光地らしい派手さはなくても、こういう時間こそが離島旅の醍醐味だと感じるのです。

日が暮れるまでまだ少し時間があったので、島の北端にある「ヤジリ浜」まで足を延ばしてみることにしました。広々としたニンジン畑を横目に通り過ぎ、灌木に囲まれた細い道を抜けると、小さな砂浜が現れます。視線の先には、小さな無人島・アフ岩がぽつんと浮かんでいます。僕ら以外はもちろん他に人はいません。ちょっとした護岸もあるので、夏は海水浴するにはちょうどいい浜のようです。

夕暮れの庭で思わぬ出会い、ネコを探して朝の散歩

宿(※現在閉業)に戻ると、ご主人が庭で夕飯のバーベキューの準備をしていました。炭を熾す手伝いをしていると、同じ宿に泊まっていた父娘も出てきました。アメリカ出身のお父さんと、まだ小学校低学年くらいの娘さんがふたり。お父さんは以前沖縄を訪れたときにすっかり気に入り、今は基地関連の仕事をしながら、沖縄に暮らしているのだそう。この旅は、奥さん抜きで娘たちと3人で来ているとのことでした。

ご主人が焼いた肉が次々と皿に並び、ボリュームも味も満点。ビールを片手に、子どもたちがはしゃぐ声を聞きながら、のんびりした時間が流れていきます。夕食後は、トランプの「スピード」で対決することに。久しぶりすぎてルールもうろ覚えだったけれど、小学生の手の速さに全く歯が立たず、連敗に次ぐ連敗でした。

翌朝、朝食を食べていると、例の娘さんたちが「昨日ネコを見たから、一緒に見に行こうよ!」と誘ってくれました。船の時間まではまだ余裕があったので、一緒に自転車でヤジリ浜へ向かいます。残念ながらネコの姿は見当たらなかったけれど、朝の光を浴びながら子どもたちと自転車を走らせるのは、それだけで楽しかった。

ほんの短い時間だったけれど、接点のない人たちとこうして一緒に何かをするのは、旅ならではの体験だと思います。いつもあるわけではないけど、島という限られた空間だからこそ、一緒に過ごす時間ができたのかもしれません。次の旅もよい出会いがあるといいな、と思いながら帰りのフェリーに乗ったのでした。