
4日間で渡り歩く最北の島々「利尻島・礼文島」
北海道の離島といえば、最北に位置する利尻島と礼文島をイメージする人も多いのではないでしょうか。どちらも北の島ならではの魅力にあふれ、数日の滞在でも普段目にしない風景や食などを堪能できるはず、と信じて足を伸ばしました。8月の終わりに2つの島を4日ほど旅したレポートをお届けします。


行きは新千歳空港まで飛行機で飛び、さらに乗り換えて利尻空港へ。「島に行くなら船で」と常々思っていますが、限られた時間で両方の島を訪れるなら、飛行機は効率的です。到着時、「飛行機を降りて振り返ると、当機と利尻富士を一緒に写真に収めることができますよ」というCAさんの粋なアナウンスで、見事な山の姿を目にすることができ、幸先の良い旅のスタートが切れました。
空港から宿のある鴛泊港に向かい、港前でスクーターを借りました。どちらの島も歩くには大きい島なので、足の確保が最優先です。その後、鴛泊港目の前の「利尻うみねこゲストハウス」へチェックイン。ここのオーナーの西島さんは長年利尻島の自然ガイドをされていて、自身も島旅好きという頼もしい方。利尻富士が見える広々とした宿のミーティングルームでは宿泊客同士の交流も盛んで、古き良き「とほ宿」や「ユースホステル」の空気が感じられます。








西島さんとひとしきり旅話しで盛り上がったあと、日暮れまで時間があるので姫沼までスクーターで向かいました。駐車場から沢に架けられた吊橋を渡り、森の遊歩道を進むと、姫沼とその畔に佇む六角形の休憩舎。周りには誰もおらず、聞こえるのは鳥の声と風の音だけ。風が止むたびに沼の水面に利尻富士の姿が映り込み、息を呑む美しさです。休憩舎で地元の人から「利尻島はお盆を過ぎると秋の気配がしてくるんですが、今年はなかなか涼しくならなかったですね。今朝の雨が上がってからやっと秋が来たようです」と聞きました。半袖だと肌寒かったのは、季節がひとつ進んだからだったのです。
日が落ちる前に鴛泊港の宿まで戻り、ペシ岬に登ります。姫沼からの帰路で、鴛泊港を守るようにそびえるペシ岬の姿に目を奪われたからです。利尻富士もいいけれど、鴛泊港にいるとこのペシ岬の存在感は無視できません。細く急な道を息切らせながら登ると、視界が360度開け、「おお……」と思わず声が漏れました。眼下には鴛泊港、向こうには利尻富士。岬の先端には鴛泊灯台が夕日に照らされています。冬が厳しいからか岬には背の高い木はなく、低灌木が草原のように斜面を覆っているのも北の島らしい風景でしょう。
夜は、近所の居酒屋「力丸」さんへ。メニューには分かりやすい島の名物的なものはなかったのですが、北海道らしい新鮮な刺身や海鮮メニューは、一段上の美味しさに脱帽しきり。特にスケソウダラの白子で作ったカマボコ「タチカマ」は絶品でした。






翌朝、「いづやんも来る?」と誘われたのは、同宿の旅人が島を抜ける見送りでした。島旅では見送りが特別なイベントになることが多く、利尻島も例外ではありません。フェリーターミナルの対岸で待機し、船が出港したら旗を振って見送るそう。利尻うみねこゲストハウスでは、さらにウミネコの着ぐるみを着る念の入れよう。「いづやんの分もあるから」と西島さんに渡され、僕もしっかり着込んで見送りしました。
見送った後は、島を反時計回りに一周することにしました。北部にある富士野園地には見晴台があり、青い海に浮かぶポンモシリ島が見えます。島一周道路を走っていても、良さげな脇道があるとつい入ってしまいます。吉永小百合主演の映画「北のカナリアたち」のロケ地だった集落や、点在する利尻昆布を干す光景が海沿いに続きます。小さな入江では小舟でウニを採っているところや、地面に網を広げている漁師さんの姿も。「これは昆布を干す網だよ。そろそろ昆布漁の季節も終わり。秋になると昆布が枯れてくるからね」とのこと。








道は島の西側、沓形の町へ。お昼時だったので美味いと聞いていたエゾバフンウニをぜひとも食べたい。お値段はなかなかですが、ミョウバンや塩水漬けになっていない生のエゾバフンウニを食べる機会もそうそうないと思い、お店で注文。運ばれてきたウニ丼は、見たことがない濃いオレンジ色。利尻昆布を食べて育ったウニは旨味と味の濃さが違いました。
デザートには、同じ沓形の町にある「北利ん道(きたりんどう)」さんで、利尻島のウニと昆布を使った不思議なアイス「愛す利尻山」をいただきました。ソフトクリームに乾燥ウニと細かく刻んだ昆布を載せ、さらに乾燥ウニの粉末と昆布塩が降りかかっています。これがなかなかどうして美味しいのです。
沓形を後にしてさらに南へ。道沿い、海を背にして立つ赤い鳥居や工場内で昆布の長さを整えているおばあさんなど、島ならではの風景が旅情を掻き立てます。
東屋に覆われた岩から水が流れている場所を通りがかりました。「麗峰湧水」と呼ばれるこの湧き水は、利尻富士に降った雨や雪解け水が長い時間をかけて濾過され、染み出してきたもの。北海道の山の水はエキノコックスが怖いですが、島には媒介するキタキツネがいないため、そのままで飲めるそう。目の前で島の人が飲んでいったので、僕もぐいっといただきました。冷たく、まろやかで美味しい。







島にいると利尻富士はどこから撮っても絵になりますが、南の仙法志地区では漁港越しの壮大な姿が拝めます。そこから少し東のオタトマリ沼から見る利尻富士も、また違った表情で捨てがたい。この日の夕方、北側の夕日ヶ丘展望台から夕闇に沈む山も実に良かった。利尻富士は本当に島の象徴なんだなあと実感しながら旅をしていました。
旅の3日目は、利尻島から礼文島へ移動します。この日から天候が悪くなり始め、急遽予定を変更し、礼文島は1泊だけ滞在することにしました。鴛泊港に入港したハートランドフェリーに乗り、礼文島を目指します。40分ほど揺られると礼文島の香深港です。港にあるお店でスクーターを借り、この日の宿に向かいます。






香深港から北を目指すこと1時間ほど。礼文島最北端のスコトン岬手前にある「FIELD INN 星観荘」さんがこの日の宿です。日本海を望む草原に、ぽつんと佇むロッジ風の宿。重く広がる雲も相まって最果て感が凄まじい。それとは裏腹に、オーナーの彦さんや、常連のお客さんはみなフレンドリーで、初めてなのに親戚の家に来たような安心感がありました。なにより、食堂兼ミーティングルーム「ブラックホール」は、大きな窓から草原、その向こうに日本海の水平線が広がっていました。この景色を日がな一日眺めていたい、そんな絶景でした。ここもユースホステルや民宿が合わさったような宿で、僕が島旅にハマるきっかけになった小笠原は父島のユースホステルに雰囲気がよく似ています。
「明日はやっぱり午後から船が欠航になりそうだねえ」と常連さん方が言っていたので、半日で行けるところは行っておこう、とスクーターを走らせます。まずは、日本の有人離島で一般人が行ける最北端、スコトン岬へ。空は鈍色、岬には誰もいない。風も強く、8月なのに寒さが沁みてくるので、地の果てに立っている気がしてきます。岬のすぐ先に見えるのは「海驢島(とどしま)」という無人島。明治期までトドの群生地だったので付いた名だとか。現在はゴマフアザラシが回遊してくることが多いとか。
その後は須古頓神社で手を合わせ、澄海岬へ向かいます。丘の上から見えたのは、ぐるりと弧を描く小さな入江とその先の岬でした。晴れていればきっと名前の通りに澄んだ海が見られたのでしょうが、水の綺麗さはよく分かります。雨もぱらついてきてしまったので、日暮れまでに時間はありましたが、宿に戻りました。
「スクーターだと、この島の見どころはほとんど見られないよ」とは、宿のオーナーさんや常連さんたちの言葉。「花の島」と呼ばれる礼文島の絶景スポットや高山植物・花は、歩きでしか行けない場所に点在しているそう。次に島に来るときはしっかり歩ける時間を確保しよう、そう心に誓いました。どんな島でも実際に行ってみないことには分かりません。たった1時間でも、その島を歩けば「次に来た時はこうしよう」と思えるものです。僕はそれを「宿題が増える」と思って喜ぶことにしています。利尻島・礼文島ではたくさんの宿題が増えました。また近いうちに提出しにいかないとですね。



