OTHER 2025.02.26

人生が変わったキッカケの島小笠原諸島1ヶ月滞在生活体験記(前編)

日本一遠い離島とも言われる小笠原諸島。交通手段は24時間かかる船だけ、それも週に約1便しかありません。「そんなところに行けるのは特別な人だけ」とすら思っていたのに、私は今、東京と行き来する2拠点生活をしています。始まりは転職を機にあえて作った1ヶ月間でのプチ移住生活でした。小笠原諸島にすっかり魅了されたきっかけの旅のことを、前編・後編に分けてお伝えします。

ariko
東京と小笠原諸島(父島)の2拠点で生活し、小笠原アンバサダーとして小笠原諸島の発信をしつつ日本全国の離島を旅する。リモートワークでパラレルに働きながらこれまでに全国約80島をめぐり、沖縄有人離島は制覇。今後も自分らしい離島生活を伝えていく。
東京から24時間。
夜を越えた先にある楽園へ

小笠原諸島がどこにあるかご存じですか?小笠原諸島は東京都の離島群で、本土から約1,000km南下したところにあります。小笠原諸島への玄関口は、東京・浜松町の竹芝桟橋。ここから出港する定期船「おがさわら丸」は、本土と小笠原諸島を結ぶ唯一の交通手段です。島民からは「おが丸」と呼ばれて愛されるこの船は、人も物資も運ぶ、小笠原諸島に欠かすことのできない大切な存在。朝11:00に出港し、まずは24時間の旅の始まりです。

「小笠原」と呼ぶのは約30からなる諸島群で、人が住んでいるのは父島と母島の2つだけ。おがさわら丸は東京と父島を結び、母島へはそこから乗り継いでさらに2時間かかります。”都内”の移動とは思えないほど遠いですよね。気軽に行ける場所ではありませんが、そのハードルの高さから、「一生に一度の特別な旅」を求める人々を惹きつけています。

それまで沖縄の離島ばかり行っていた私に「小笠原」というワードが思い浮かんだのは、どうしてなのかわかりません。でもこの判断が、私の人生を大きく変えることになりました。

長い船旅の末、楽園に上陸すると
「おかえりなさい」の大歓迎が待っていた

船内のアナウンスによって、父島が近づいてきたことを知った翌朝10:00頃。船のデッキに出てみると目の前に広がったのは、これまで見たことのない鮮やかで濃いブルーの海。その美しさに心が躍りました。長時間船内にいたせいか、なんだか太陽の光がいつもより眩しく感じられたのを覚えています。日光が反射して、海面もキラキラ。自然と気持ちも高揚してきました。

ついに父島が姿を現し、「烏帽子岩」と呼ばれる大きな岩を越えて湾内へ。この長い船旅の果てに辿り着いた光景は、まるで宝石を散りばめたように輝く集落やビーチでした。遥か遠くの世界にやってきたという感覚とともに、父島は洋上の楽園のように見えました。

「おかえりなさい〜!」
下船し、お世話になる宿泊施設のところに行くと真っ先に言われたこの言葉。「誰かと勘違いしている・・・!?」本気でそう思った私は勉強不足でした。小笠原諸島では、初めて来た人にも「おかえりなさい」と言って歓迎するのです。見送る時は「いってらっしゃい」。”別れ”としないことが小笠原諸島の文化だとは、この時まだ私は知りませんでした。

ウミガメも身近な島の暮らし
小笠原の雄大な自然に感動

おがさわら丸から白く輝いて見えたビーチは、父島の中心地・大村地区にある大村海岸(通称、前浜ビーチ)です。集落の中心にありながら、その美しさには思わず息を呑んでしまいます。観光客が海水浴を楽しむだけでなく、島民にとっても憩いの場として愛されています。

小笠原諸島は日本最大のアオウミガメの繁殖地としても知られており、産卵シーズン(5〜8月頃)になると大村海岸にもウミガメがやってきます。砂浜には、産卵のために上陸したウミガメの足跡がしばしば見られます。私が滞在していた4月から5月は産卵の時期ではありませんでしたが、海で交尾をするウミガメを何度か目撃しました。
生物の貴重な姿を間近で観察できる小笠原諸島は、大自然を実感させてくれる特別な場所です。その瞬間ごとに感じた感動は、言葉にできないほどのものでした。

島の高台から一望できる
父島の絶景に心癒されて

小笠原諸島は絶景だらけ。「展望台」と名の付く場所も多いですが、そうでなくても少し高台に登れば、青く輝く海に抱かれる父島の絶景が見渡せます。私が好きな「三日月山展望台」からは、大村海岸の美しい青とともに船が行き交う様子を眺められます。

もう一つお気に入りの場所は「中山峠展望台」という場所。30分弱の軽い山登りを終えると視界が一気に開ける開放感がお気に入りの理由です。右に目を向けると海の先には大村集落も見えます。少し汗をかいた体に吹き付ける風がとても心地良いです。
島の高台から広がる景色は、ただ美しいだけでなく心まで解きほぐしてくれるような癒しを与えてくれました。

独自進化を遂げた生物が集う小笠原諸島
絶滅危惧種も日常の一部に

小笠原諸島の動植物は固有種が多く、特にカタツムリ(陸産貝類)においては9割以上が固有種だと言われています。小笠原諸島が一度も大陸と陸続きになったことがない「海洋島」であり、生物が独自の進化を遂げたためです。オガサワラオオコウモリやオガサワラノスリ、母島のみに生息するハハジマメグロなどの鳥類、オガサワラトカゲといった爬虫類、ムニンツツジやヒメツバキなどの植物、ミズタマヤッコをはじめとした魚類など、種を挙げればキリがありません。陸も海も、ここでしかみられない珍しい生物の宝庫です。

絶滅危惧種として指定されている生物も生息しており、その1つが私も好きなシロワニというサメです。実は、シロワニが日本で自然に生息していることが確認されているのは小笠原諸島だけなんです。ダイビングでシロワニの生息域に連れて行ってもらうこともできますが、小笠原諸島のさらに特筆すべきは、漁港という日常的な場所でシロワニを見ることができる点です。
夜になるとシロワニの出現率が高くなるので、散歩がてら漁港を訪れてみてはいかがでしょうか。

野生のイルカやクジラをウォッチング!
ザトウクジラのジャンプに圧倒される

私は小笠原諸島に行くまで、イルカやクジラに出会うことも特別なことだと思っていました。ところが、小笠原諸島に行くとあらゆる概念が覆されます。

小笠原諸島に来て数日目。私は、ほんの数メートル先で繰り広げられるザトウクジラのジャンプ(ブリーチング)を目の当たりにし、あまりの迫力に圧倒され尽くしてしまいました。私は日本にいるのか、夢でも見ているのではないか。いざ目の前にすると興奮して言葉を失うものですね。

ザトウクジラは、繁殖や子育てのために例年12〜4月頃まで小笠原諸島周辺にやってきます。私が小笠原諸島を訪れた時はすでにシーズン終了間近。至近距離でクジラのパフォーマンスが見られたのは運が良かったのかもしれません。ザトウクジラのジャンプによって引き起こされた波による船の揺れ、ザトウクジラの体が海面に叩きつけられる音、水しぶき。あまりにも衝撃的すぎて、今でも鮮明に思い出すことができます。
数頭のザトウクジラが船を囲み、さらにはイルカの群までやってきて、どちらも野生を見るのは初めてだった私は、目の前の状況を理解するのに時間がかかりました。

ちなみに、イルカは小笠原諸島周辺海域で1年中見ることができます。ホエール・ドルフィンウォッチングをおこなうツアー会社が複数あるので、小笠原諸島旅行の際にはぜひ参加してみることを強くおすすめします。きっと一生の記憶に残る体験ができるはずです。

滞在中はリゾートバイトで
ゲストと一緒に楽しむ

私は、宿泊施設のスタッフとしてリゾートバイトをしながら1ヶ月間を過ごしました。スタッフと言っても小笠原諸島に来たのは初めて。観光客のみなさんと一緒になって海で泳いだり山を登ったり、飲食店巡りをしたり。日常生活の中に観光の楽しみを溶け込ませる形で島の生活を体感しました。

「一生に一度かもしれない」その時もまだそう思っていたので、仕事の合間を縫って時間が許す限り外に出て遊びました。あっという間に過ぎていく日々。でも、小笠原諸島を知れば知るほど、一生に一度なんて言ってられないほど、もっともっと知りたくなっていったのです。