大島と世の女性を元気にする場所づくり

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大島東京都

島ぐらしカフェ chigoohagoo

長瀬夏海/浅沼未弥

NATSUMI NAGASE/MIYA ASANUMA

いつかは大島に貢献したい
そんな想いでホテル業へ

未弥:
私は大島出身で、高校卒業まで住んでいました。高校時代はバレー部で「離島のチームでも大会で優勝する」ことを目標に活動する熱い部活だったんです。チームには「自分たちの活躍で大島の人たちを元気にする」という想いがあって、私もその想いに共感して毎日練習していました。大学から島を出て、本土で就活をするときに軸になったのが、このバレー部での経験です。将来的に私が働くことで大島に元気を与えられるような存在になることが、一番私らしいと思っていました。そんなときに出会ったのが当時リゾート運営としてはベンチャー企業だった星野リゾートです。リゾート運営を通じて地方創生をするという理念に共感して、いずれ大島に貢献できるような知識が学べるんじゃないかと思い入社しました。そこで出会ったのがなっちゃんです。

夏海:
私は長野県出身で、海外在住の経験もあって、外国の方に日本の魅力を伝えたいと思って星野リゾート入社しました。二人ともサービスチームに所属していて、客室清掃からフロント業務、調理までサービス全般を提供する仕事をしていました。当時の星野リゾートは業績をどんどん拡大している時期だったので、自分の個性を出しながら切磋琢磨して働ける環境が刺激的でしたね。勤務地を転々としながら、お互い約10年働きました。

思い立ったらすぐに行動!
女性二人で大島に宿をオープン

未弥:
会社が大きくなるにつれて働く環境が整うなど良い面もありましたが、以前のように個性を出せる機会も減ってしまって。どこか物足りなさを感じるようになりました。自分らしく働きたいと葛藤しているときに、大島に親戚の空き物件があることを思い出したんです。今の私だったら、宿ならできるかもしれない!と思いついたまま、何の計画もなく退職し、大島に戻りました。

夏海:
実は私もミヤが辞める前に退社していました。東京で就活しているときに、ミヤが大島で宿をするって話を聞いたんです。最初は東京の会社に就職して、土日にミヤの宿でお手伝いできたらいいな〜と思っていました。そこで、ミヤが物件の下見をするときに、私も観光がてら付いていったんですが、初めて訪れた大島が一瞬で好きになってしまいました。裏砂漠にも感動したし、大島には日本の原風景が残っていると感じて、私もずっとここで働きたいなと思ったのですぐに移住を決めました。

未弥:
二人とも計画性がないまま動いちゃいましたね。2019年の12月に移住してきましたが、同時にコロナ禍が始まりました。泊まりのお客さんが見込めないからカフェにしようかとも悩みましたが、カフェを目的に大島まで来ないよって意見もあって。私たちの得意分野の宿を軸にカフェもする今の形になったんです。

二人で暮らした日々が
教えてくれたコンセプト

夏海:
お店の業態は決まりましたが、chigoohagooのコンセプト作りにはとても悩みました。大島といえば椿なので壁一面椿にしようかな?とか、お芋が美味しい土地なのでお芋カフェにしようかな?とか…。いろいろ考えましたが、どれも私たちらしくなくて。女性にのんびりしてほしいって想いはあるんですが、コンセプトとしては曖昧でふわっとしている。どうしたものか悩んでいたときに、思い出したのが、私たちが星野リゾートで最後の勤務地だった長野県大町に住んでいたころのことでした。当時、私たちは古民家を借りてシェアハウスをしていたんです。そこでよくカフェごっこをしていました。後輩たちを招待して、ミヤが悩み相談を受けるなど他愛のない話をする。私はお菓子を出して、その様子を影から見守る。その時間がとても好きだったし、みんなの心がほぐれていくような気がしました。じゃあその延長を大島ですればいいんじゃない?と思って、「慌ただしく生きる現代の女性たちが、島時間の中で体を整えて、心をリセットし、自分を認められるような場所」にしようとコンセプトが決まりました。大島は雑然とした東京都心からすぐ近くだし、ターゲットも観光客というよりは全世界の女性たちなんです。

市場のニーズが変わってきた!?
悪戦苦闘の楽しい毎日

未弥:
コンセプトが決まり、2020年7月、コロナ禍にオープンしました。観光客が少ないことは覚悟していたので落胆することはなく、むしろコンセプト通りのお客さんが来てゆっくり過ごしてくださっている印象でした。大島に移住してきた方もよく通ってくださっていましたね。最近はコロナ禍も落ち着いたのか観光客がとても多くなって驚いています。お客さんが増えることはとっても嬉しいのですが、以前とお客さんの層が変わってきたので、当初のコンセプトとお客さんのニーズとのずれを感じい始めてます。

夏海:
星野リゾートでは、魅力を発信するアイデアやきめ細かいサービスを学んできました。それが実際に活きていて、お客さんの満足のために試行錯誤する楽しさは存分に味わっています。

未弥:
一方で経営や数字のことは学んでいなかったので、苦労しているところです。でも二人とも困難に挑戦することが好きなので、いろんな人にアドバイスをもらったり、経営の本を読んだり、ビジネスのYouTubeを観たり、毎日楽しみながら勉強しています。

Uターンだからこそ気づき始めた島の魅力
大島でもビジネスができると証明したい

夏海:
私がここにきて思ったのが、島の女性たちがとても器用なことです。今あるものを工夫して直して上手に活用していることに感動しました。そんな方々を応援するという意味も込めて、ギャラリーを併設しています。商品のほとんどが大島に住むママさんの作品。子育ての合間に好きなことで収入が得られたり、お客さんからの感想があったりすると、自己肯定感も高まるでしょうし、社会とつながっている実感が持てるのではないかなと思って始めました。

未弥:
私は大島出身なので、大島に貢献したいという想いはありつつも、大島が好きかと聞かれたら素直に頷けないまま島を出たんです。でもこうして宿の経営をきっかけにUターンしてきて、お客さんの感想を聞いたりすることで、改めて大島の魅力に気づき始めています。大島の人口は7000人を切っているし、観光シーズン以外に訪れる人も少ない。そういう状況だからこそ、私たちが大島で宿を成功させることで、小さな離島でもビジネスができることを証明したい。そして、私たちを参考にしていただいて、いろんな離島でもチャレンジする人が出てくれたら嬉しいですね。また、いろんな女性の相談を聞くと、自分らしくない、何か始めたいけど始められない、自分の軸がわからない、などたくさんの悩みを抱えています。そうした人が少しでも自分を知って、居場所を見つけて、心地良い生き方ができるような環境をこれからも作っていけたらと思っています。

大島にUターンしたミヤさんと、Iターンしたなつみさん。リゾート運営会社で培った経験を活かして、2020年7月に宿泊ができるカフェ「chigoohagoo」を大島にオープン。離島でビジネスが成り立つことを証明して、世の女性を応援することが目標。