屋久島だから届けられる
香りに宿る、森の記憶

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礼文島北海道

やわら香

渡辺 優子

YUKO WATANABE

心身の不調を感じていた時に
アロマの薬理作用を知る

以前はキャラクターデザインや雑貨の企画などの仕事に携わっていて、忙しく働く日々を送っていました。すごく楽しかったんですが、朝から深夜までデスクに向かう生活の中で、ストレスと過労が重なり、体調を崩したことをきっかけに、心身のバランスを整える方法を探すようにもなっていました。そんな時に、偶然訪れたアロママッサージサロンで、植物の香りがもたらす深い癒しの力に初めて触れたんです。それまでは、アロマは生活に余裕のある女子が使うものという偏見を持っていたんですが、調子を整えたり、予防したりなど様々な薬理作用を知ってからは、アロマにのめり込んでいきました。私にとってその出会いが人生の転換点となり、アロマの学びを本格的に始める決意を固めていったんです。

日本産の香りにこだわり
全国の生産現場を訪問

アロマ自体の魅力はもちろんですが、アロママッサージサロンを経営するオーナーの生き方にも惹かれて転職を決意しました。サロンがちょうどスクールを始めるタイミングだったこともあり、技術と学びを重ねていきながら、ショップで5年間働かせてもらったんです。使用するアロマを全て日本産にものにしたいというオーナーの想いもあり、それなら生産の現場を直接見にいく機会もあるかなと思ったのも大きかったですね。岐阜県や沖縄県など各地の現場を見ていく中で、「日本の植物の香り」に興味が移り、外国産ではなく、日本の森や土から生まれる香りの豊かさを伝えたいと考えるようになりました。一本の精油には、その土地の気候、育った木々、そして作り手の手仕事までもが凝縮されていて、その香りを通して目に見えないその土地のストーリーを伝えることができます。私にとって香りづくりは単なる癒しの手段ではなく、人と自然、人と記憶をつなげる大切なものになっていきました。

一瞬で一目惚れした屋久島
導かれるように移住することに

いくつもの土地を巡る中で、たどり着いたのが屋久島なんですが、今思うと自然と導かれていったような気がしています。アロマの仕事をしていく中で、自然物を扱っているのに、自分は窓を閉め切った部屋で1日中作業をしているというギャップに違和感を感じていたんです。自分自身のリフレッシュも兼ねて、生産地にいって製造のお手伝いをしたいなと考えていた時に、本当の森が残っている場所だからと屋久島を紹介してもらいました。世界遺産の島という程度の認識だったんですが、空港に降り立った瞬間に一目惚れしてしまいました。緑の濃い香りが感じられて、山と海が近く、1,000年を超える木々が息づく森など自然はもちろん素晴らしいんですが、そこに住んでいる人たちの喜怒哀楽がしっかりしていて、みんな正直に生きているなという印象を受けました。それから数年が経過して東日本大震災の時に自分のサバイバル力の低さを痛感して、それを養うために荒々しい場所に飛び込もうと思ったんです。意欲的に書いていたブログに、住む場所や仕事も決まっていないけどとりあえず行きますという決意表明を載せたら、屋久島の林業関係者がそれを見てくれていて声をかけてくれました。そんな奇跡的なストーリーから屋久島に移住することになりました。

アロマの可能性を信じて
屋久島ならではの香りを追求

屋久島に移住したのが13年前(2025年現在)、当初は試行錯誤しながら山に木を切りに行って薪割りの体験をしたり、アロマの製造方法を確立させたり、量産化できる方法がないかなどを検討していきました。商品づくりに関しては、日本にある植物の種類の中で約3/4がある屋久島だからこそできることがあるんじゃないか、持続可能なスタイルを考えながら試行錯誤。4人の共同経営でスタートした「やわら香」ですが、7年前から私が代表になって今のスタイルを確立していきました。間伐した屋久島の杉を中心に原料として用い、「水蒸気蒸留法」で丁寧に抽出した精油は、屋久島の森に蓄積された記憶を「香り」というカタチで取り出しています。森の香りは、私達のDNAに刻み込まれた記憶を呼び覚まし、本来の力を取り戻すきっかけとなると信じているんです。また、杉の香りは睡眠への作用があると言われています。私はアロマを通して、その人らしく健康に生きるための手伝いができればと考えているので、アロマの睡眠作用について、各方面で展開していけたらと思っています。屋久島と言えばトレッキングというイメージが強いと思います。体力がないと屋久島には行けないと考えている人のためにも、トレッキング以外にも森や自然を感じることができるアクティビティがあることを、これからも発信し続けていきたいと思います。

自身が体調を崩したことをきっかけに、心身のバランスを整える方法としてアロマと出会う。2012年に屋久島に移住し、株式会社やわら香を設立。屋久島の香りを用いた事業を展開している。主な事業として、屋久島産精油抽出・販売・商品企画、屋久島アロマブランド「島の記憶」プロデュース、和のアロマサロン・スクール運営、ウェルネスライフサポート事業などがある。