屋久島の豊かな自然を
もので、ひとで、伝えて行く

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屋久島鹿児島県

株式会社BLESS

金田 知博

TOMOHIRO KANEDA

五つ星ホテルでの勤務を経て
屋久島へと移住

幼少期よりホテル業に憧れていたこともあり、アメリカ、タイ、香港の外資系ホテルで経験を積んだ後、東京の五つ星ホテルでVIP対応を担当。長年ホスピタリティの最前線に立ち、ゲスト一人ひとりの期待を超えるサービスの提供を心がけてきました。2011年に、自然と調和する高級リゾート「sankara hotelu0026spa 屋久島」にマネージャーとして赴任。離島でのサービス運営や地域との共生の在り方を肌で学びました。2012年、屋久杉を扱う老舗の三代目の妻と結婚したのを機に転職。観光土産に依存した経営体制に疑問を抱き、「屋久杉という限りある資源をどう次代に伝えるか」という問いに直面しながら、経営のあり方を試行錯誤してきました。そこで、〝売る〟から〝伝える〟へと軸足を移し、大量生産ではなく東京にもないような〝ものづくりをしたい〟と思い、2019年に自身のブランド「YAKUSHIMA BLESS」を立ち上げました。これは、屋久杉を中心とした新しい地域循環型のものづくりへの挑戦でもありました。

人を通して伝える
ものづくりへの転換

「YAKUSHIMA BLESS」では、石鹸・蜂蜜・香り製品など、島の恵みを活用した製品を開発し、単なる〝商品〟としてではなく〝体験の延長線上にある品〟として届けるようにしています。AIやデジタル化が進む現代だからこそ、「人間らしいぬくもり」や「作り手の声を直接届けること」が何よりも大切だと考えているんです。それは私が長年ホテルで培ってきたホスピタリティの精神が土台となっていて、食事や部屋など滞在時の満足はもちろんですが、チェックアウト時に「○○様ご滞在はいかがでしたでしょうか?」と直接声をかけること、一人ひとりに向き合って丁寧に接することが何よりも大事だと思っています。「YAKUSHIMA BLESS」は少人数で運営をしていますが、お客様との対話を大切に日々丁寧に営業しています。理念は「物を通じて伝える、人を介して伝える、そして屋久島そのものが伝わっていく」という三層構造の思想。観光にしても、ここに行ってきてくださいと紙を渡すだけではなくて、そこに何かを書き込んだり、やっぱりその人との触れ合いだったり、島の中でも人から人にバトンタッチされていくなど、屋久島ってどこへ行っても気持ちいいよねって思われたら嬉しいですね。

アーティストとコラボし
五感で島を感じる商品を開発

「YAKUSHIMA BLESS」では、屋久杉の希少部位を用いたワークショップを開催しており、訪れる人々が自らの手で木を磨き、香りや手触りを感じながら〝木の命〟に触れる時間を提供しています。それは観光客向けのアクティビティとしてだけではなく、限りある資源を有効活用しながら、自然と人との関わりを再発見する場としても有意義だと思っています。木目の違いや節の表情、磨くほどに現れる艶や香りの変化を体験することで、参加者は「自然素材が持つ個性」と「人の手が加わることで生まれる美」を同時に体験。傷や欠けのある木も“欠点”ではなく“物語”として受け入れ、ありのままの素材と向き合う喜びを感じることができます。この体験を通じて、屋久島の自然を眺めるだけではなく、“自分の手で関わる”という深い記憶として、家に持ち帰ることができるんです。
そのほかの商品に関しても、島外のアーティストとコラボしながら作ることで、商品の質にこだわっています。年間600本しか作れない蜂蜜は、高価に感じるかもしれませんが、屋久島の大自然、蜜蜂、人、調和がおりなす非加熱の生はちみつで、ここにしかない希少価値の高い商品。屋久島のお香も、五感で屋久島を感じてもらえる商品として、こだわって開発したものになります。

屋久島の自然と人を
つないでいく拠点に

屋久島は、海・山・川の全てが30分圏内に共存する立地に恵まれた島です。観光で訪れた方には、有名な縄文杉やトレッキングコースだけでなく、集落の小道や地元の市場、日常の暮らしに息づく屋久島のリアルな姿にも触れてほしいなと思います。目の前には、そこに生きている生き物がいて、急に向こうの方から雨雲が寄ってきて、宮之浦岳にぶつかって雨雲になるとか、水の循環もわかる島ですし、全てが地球を凝縮したようなというか、何かそういうサーキュレーションの見える島ってすごく稀じゃないかなとも思っているんです。そのために店舗では、単なる販売の場としてだけではなく、訪れる人々が島の生活文化や自然の循環を感じ取るための〝窓口〟としての役割も担いたいと考えています。屋久島には、貴重な自然を生かした地域づくりとそれを保全することを目標として制定された「屋久島憲章」があります。屋久島の豊かな自然をずっと守っていきたい。私たちはオリジナルのキャラクター「やくさんとジョー」を作りました。可愛らしいキャラクターから入ってもらってもいいので、これからも多くの人に屋久島の自然とそれを維持していく取り組みを伝えていけたらと思います。

神奈川県横浜市出身。幼少期よりホテル業に憧れ、アメリカ、タイ、香港の外資系ホテルで経験を積んだ後、東京の五つ星ホテルにてVIP対応を担当。2011年、sankara hotelu0026spa 屋久島への勤務を機に屋久島へ移住。屋久杉を扱う老舗の三代目の妻との結婚を機に転職し、2019年に「YAKUSHIMA BLESS」を開業。限りある屋久島の資源を活かしながら、島の自然環境に寄与するモノづくりを追求している。