島で緩やかな輪を
広げていく身の丈起業

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久米島沖縄県

合同会社PLUCK

石坂 未来/石坂 達

MIKI ISHIZAKA/TORU ISHIZAKA

2人が都会から久米島へ
たどり着くまで

ご主人:都会の生活に疲れて、東京以外の場所で暮らしたいと考えていた時、友人に誘われて2012年に島根県隠岐島の海士町に移住したことが、離島と関わるきっかけでした。地域を舞台にした企業研修や大学のフィールドワークをコーディネートする仕事をしながら、約3年半の島暮らしを楽しみました。しかし、海士町が地方創生のモデルとして有名になる中で、既に多くのプレーヤーが揃っており、自分の役割が見つけづらく感じました。また、寒い冬を避けて南の地域に移り住みたいという気持ちも強くなりました。移住先を探している中、友人から久米島の島暮らしコンシェルジュ(地域おこし協力隊)の話を聞き、もっと島の魅力を上手に発信できるのではないかと思い、久米島へ行くことを決めました。
奥さん:彼が地域おこし協力隊の3年目に、私は1年目として参加しました。私は別のプロジェクト、具体的には離島留学制度のハウスマスターとして関わることになりました。以前は約10年間IT企業で働いていましたが、教育業界にずっと興味があり、なかなかその一歩を踏み出せずにいました。しかし30歳を過ぎた頃、未経験の業界に挑戦する決意を固めて調べていたところ、久米島の離島留学制度を知り、その手伝いをしたいと思うようになりました。北海道の礼文島も候補に挙がっていましたが、温かい気候が決め手となりました。そういう意味では彼と同じですね(笑)。都会に合うか、田舎に合うか、子供によって適性があると思うんです。けれど子供は環境を選べない。自分もそれで悩んだ経験があったので、そういう子供たちの力になりたいと思いました。

身を削らずに愉快に暮らせる実験
=身の丈起業

ご主人:地域おこし協力隊の2年目から、副業を始めました。まず、自分のスキルセットを整理し、どのスキルが収入に繋がるかを検証するために、クラウドソーシングに登録して仕事を受けてみました。他の地域でもみてきましたが、成功している人の中には自分の身を削っている場合も多いです。そこで、身を削らずに愉快に暮らせるよう、自分で実験していくのが起業のテーマとなりました。これを身の丈起業と呼んでいます。その一つの事例が、奥武島キャンプ場の委託事業です。もともとキャンプが好きだったこともあり、アウトドア用品のレンタル事業を始めました。年間50日ほどキャンプをしていた時期もあり、そのおかげで島の人々にキャンプ好きとして認知されるようになりました。その結果、アウトドアツーリズムのニーズ調査やキャンプ場の指定管理者の仕事にもつながりました。

愛情に包まれた
子育てを求めて久米島へ

奥さん:地域おこし協力隊を2年で退任した後、高知の高校の寮立ち上げにアルバイトとして関わっていました。そのプロジェクトが終わったら久米島に戻るつもりでしたが、コロナ禍の影響でそれが困難になり、約2年間、実家のある関東で過ごしていました。その間に友人から紹介され、愛媛県の自治体DXの戦略策定のお仕事を手伝うことになり、そこで今の夫になる彼をメンバーに誘いました。この仕事をきっかけに交際が始まり、子供も生まれました。関東でも良かったのですが、久米島で子育てをしたいと思ったんですよね。島での生活では、子供がいるのが普通で、子供を連れて行ってもダメな場所がないんです。しかも島の子として、地域の方みんなが可愛がってくれる。ある時、島のおじいちゃんが知り合ったばかりの子どもを躊躇なく抱っこしている姿を見て、島民の子供に対する温かい姿勢に衝撃を受けたことがありました。子供にはいろんな人の愛を受けて育って欲しいと思ったからこそ久米島に戻りました。

緩やかな家族の輪を広げる
シェアハウスを作りたい

お二人:もともと友達を呼んで家でご飯を一緒に食べるのが好きなんです。久米島はコンパクトな島なので、どこからでも20分もあれば集まれます。その中で子供たちも一緒に過ごす時間が作れます。各家族だけど、一つの大きな家族のような、人と人の結びつきを感じられるのが理想だと思っています。そんな緩やかな絆を広げるために、今年の2月から久米島で初のシェアハウス「くじらじかん」を立ち上げました。約140平米の建物には6つの部屋があり、広いリビング、キッチン、トイレ、お風呂は共同で利用します。最短1ヶ月から予約を受け付けています。島に来ても本当の良さを味わえずに去ってしまう人もいますし、リモートワークの普及により地域の方と接点を持つのが難しくなっています。だからこそ、お試し移住をしてもらえたら嬉しいです。ちなみに建物の1階にある文房具屋さんも事業継承しており、ふらっと立ち寄れるオープンな交流場所として利用してもらうつもりです。久米島らしい時間を知ってもらい、自分の好きな場所に帰っていく。それでも久米島の穏やかな時間は変わらずにあります。島を離れても、いつまでも忘れないでいてほしいという思いで、シェアハウスを運営していきます。

衰退期の日本の田舎で、愉快に生きていける人を増やす。沖縄・久米島にある社会実験企業文房具店の2Fをリフォームし、家族のように暮らせる多世代型のシェアハウス「くじらじかん」や、地域に密着したモノの貸し借りプラットフォーム「カリグラ」の運営のほか、地方のホテル・民泊・飲食店様向けに、実績豊富なデジタルマーケティング支援など、様々なサービスを提供している。