大好きなものづくりを魅力がつまった壱岐島で
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壱岐島長崎県
ACB工房
草野 みゆき
MIYUKI KUSANO
「なんでもやってみたい!」好奇心から移住
壱岐島での暮らしは新しいことの連続だった
元々キャラクターやテーマパークのコンセプトデザインを考えて、商品や施設をつくる仕事で走り続けてきましたが、のんびり、じっくり考えながら、ゆっくりものづくりがしたいと思い会社を辞めました。同じタイミングで壱岐出身の人から壱岐島の話を聞いて移住を決意したんです。移住後は、島の真ん中にある国の特別史跡「原の辻遺跡」で発掘の仕事に携わり、さらに縁あって、出土したものが集められる「一支国博物館」で働かせていただきながら新しい人づきあいを楽しみました。そんな中、趣味の乗馬で背中を傷めてしまい、座って仕事ができなくなったことで博物館を離れることに。背中を治すために壱岐島の名湯、湯本温泉に通い出したのですが、そこで「石けんを自分で作ってみたいな」っていう発想が生まれました。
「旅の人」だからこそ分かる島の魅力
島で見つけたすてき!をつめ込んだ商品づくり
遺跡や博物館で働き、島で生活するうちに壱岐島の「すてき!」をたくさん見つけました。元々呉服屋さんだったこの建物の前にある愛嬌たっぷりの赤い丸ポストを気に入り、ここで何かをしようと決めていたので、ポストからお届けできる「すてき!」をつめ込んだ商品を生み出す工房にセルフリノベーションしたんです。はじめに手づくり化粧石けんを作りました。壱岐島での暮らしは海なしではできないので、海に流れても環境を汚すことのない自然由来の成分を使って、魚をモチーフにした「おさかな石けん」が誕生。壱岐島は魚がたくさん釣れる「魚の島」だとすぐに分かるように魚の形にしようという考えが思いつきました。ほかにも「島の伝統文化」の鬼凧や、「島の風景」の猿岩、「島の歴史」の人面石をポストカードにしたり。ポストから凧が飛んでいくのとか、想像したらかわいいなと思ったんですよね。また、通っていた湯本温泉から温泉成分を分けてもらったり、壱州豆腐屋さんで豆乳を使わせてもらったり、島のあちこちの柑橘類が工房に集まってきて、ご縁のつながった島の人々の協力の元で、地元の素材を用いた石けんを作ることができました。「旅の人」、壱岐島では島の外から来た人や移り住んだ人をそう呼びます。今も旅の人目線で島を見ながら、島の魅力をつめ込んだ商品を日々模索中です。
赤い丸ポストから届けたい
壱岐島の思い出たち
工房のシンボルでもある赤い丸ポストは、潮風でかわいそうなほど塗装がはげていましたが、たくさんのご協力があって、かわいい赤い色に塗り直してもらいました。かわいい赤い丸ポストを活用できるようにと、島の名所をかたどったポストカードやおさかな石けんは、ポストに投函できるサイズにしています。工房を訪れたお客さまの中には、旅の思い出にお便りを書く方もいらっしゃいます。のんびり手紙が届くことも、のんびりとした島時間の1つです。
ものづくりだけではなく
つながりも作っている工房
小さいころからものづくりが好きで、美大時代は立体の造形をしていましたが、働き出してからは自分の手で作ることはありませんでした。ゆっくり、ものづくりがしたいと思い、それを実現できたのが壱岐島でした。「どんな人が島に来て、何を求めているのか」を軸に、石けんづくりを含む商品は、どんなものを作ったら使う人の気分を上げられるのか考え、楽しみながら「どこにも売ってないものを作ることができる」ことに喜びを感じています。また、商品の誕生には、島の方々のご縁だけでなく、以前の仕事仲間や大学時代の仲間からも協力をいただきました。これまで培ってきたつながりの大切さを感じますね。そして今は石けんなどを製造販売しながら、工房以外のイベントでも出会いが増えているんです。最近ではソーシャルメディアからのご縁で仕事につながり、ありがたく思っています。商品を作り、仕事が生まれ、人とのつながりを循環させていくことは、これまで協力してくれた方々への恩返しでもあると考えています。今後も、手づくり手仕事で少量生産だからこそできることを、楽しく模索し続けて行きたいです。
東京出身。2018年に壱岐島へ移住し、2021年に赤い丸ポストが目印の「ACB工房」をオープン。島でみつけた「すてき!」をつめ込んだ石けんやポストカードなどの手づくりグッズを製造・販売している。また、工房や島外で行われるポップアップでは、ワークショップも行っている。