日本と韓国の良いとこ取りで
対馬のストーリーを紡いでいく

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対馬長崎県

対馬STORY

鈴木 純/李勇 澈

JUN SUZUKI /LEE YONGCHUL

韓国から対馬へ移住し
日韓夫婦ならではの活動を開始

韓国の古典文学を勉強するために韓国へ留学し、その後韓国で日本語の教授になりました。そこで出会ったのが観光学を教えていた夫です。しばらくは夫婦で韓国で過ごしていましたが、子どもが生まれた時には、日本の田舎で遊ばせながら育てたいという思いが以前からありました。2018年に知人から「日韓の夫婦だから、日本と韓国の間にある対馬に行ってみたらおもしろいよ」と言われて旅行に行った時に対馬に可能性を感じたんです。韓国人観光客の急増でオーバーツーリズムの問題を抱えていた対馬。その問題を観光学者の夫なら解決できるのではないか、そして私もここなら日本語と韓国語を使う仕事ができると考え対馬への移住を決めました。早速韓国人観光客向けに日本文化体験を開始。対馬を理解してもらうことでマナーを守って観光を楽しんでもらえるのではないかと思い「対馬STORY」を作りました。また、私たちは長い間大学で働いてきたので学校を起点とした地域活性化ができるかもしれないと考え、10〜15年計画で学校を作ろうと思ったんです。対馬には高校までしかなく、その次にいける学校を作ったらそこで人材が育って対馬のためになる人たちが出てくるんじゃないか?そのためにはここでどういう学びが必要なのか?というのを暮らしながら考えていこうと2人で決めました。

移住後の準備期間になったコロナ禍に
対馬で感じた韓国のような「情の厚さ」

これから本格的に活動を始めようと思った矢先、コロナが世界的に流行し始めました。だけどコロナ禍だったからこそ、地域の人たちが「来たばかりなのに大丈夫?」って心配してくれて私たちのやりたいことをお話しできましたし、対馬を知る良い機会にもなって、島に溶け込むために大事な準備期間だったんだと思っています。元々は観光客向けの体験を考えていましたが、コロナ禍で観光客が少なかったこともあり地域の人たちに向けて韓国語講座を無料で開催しました。そこで地域の人と関わるうちに、韓国にいた時のような「情の厚さ」を感じたんです。夫がいつも言うんですが「見える情と見えない情」、日本人のおもてなしはそっと、韓国人のおもてなしはガッツリなんです(笑)対馬も韓国と同じで、引越しの時に使わなくなった食器をいただいたり、生活が苦しいってなったら魚や野菜を持ってきて「食べる?」って言ってくれたり。そんな対馬の人たちの「なんでもしてあげたい」っていうところが韓国人っぽくておもしろいです。

“やんこも”対馬に来てほしい
日韓両方の「心のふるさと」に

対馬の方言で「やんこも」(=「何度も」)っていう言葉があります。日本から対馬に来る方にとって対馬は一生に一度来るか来ないかって場所で、リピート率は低いんですよね。来てくださる方に「1回では対馬の魅力は伝わらない」といつも言っていて、7月の地蔵盆や1月の市民劇団のミュージカル、日本では珍しいヒトツバタゴという春に咲く花とか、対馬の良さはいっぱいあるんです。時期を変えながら“やんこも”来てくれると嬉しいですね。反対に韓国人は対馬に対して、「私の心のふるさと」というように懐かしさを感じるらしくて、リピートも割と多めなんです。韓国は高層ビルが立ち並んできて自然豊かな場所がなかなかなく、国外だけどたった50㎞しか離れていない場所に対馬があるのはとてもメリットですよね。日本人にとっても韓国人にとっても「心のふるさと」になって、何度も対馬を訪れてほしいです。

島の人たちが持つさまざまな技術を活かした
第二のふるさととなる学校を作りたい

観光客のためだけではなく、地域の人にももっと対馬のことを知ってほしいと思っています。韓国文化体験の授業を高校でやったり、歴史を知ってもらおうと小学生が描いた絵の絵画展を対馬朝鮮通信使歴史館で実施したり。そこで学んだことを家族に伝えたり、子どもの絵を歴史館に見に来てくれることで、大人も自分たちが住んでいる対馬への理解を深めることにつながると思うんです。こうやって島の人たちが「対馬に住んでるのおもしろい!」って思って、地域ぐるみで子どもたちを育てていける「学校」を作りたいです。そのために今は韓国・日本文化体験やゲストハウスを運営したり、韓国料理のテイクアウトのお店を始めたりと展開していて、地域の人たちとお話しする際には「学校を作るときはお願いします!」と仲間を増やしていっています。実は島には、着付けや茶道、武道などできるって色々な技術を持っている人がたくさんいるんです。夫がいつも言ってる「自分も先生、自分も学生」というように集まった人がそれぞれの特技を活かしてつながれる場所、そして対馬に遊びに来てくれた人にとって第二のふるさとになる学校を作っていきたいです。

韓国で観光学を教えていた韓国人のご主人と、韓国で日本語を教えていた新潟県出身の奥さまが2人のお子さまとともに対馬へ移住。2019年に日本・韓国文化体験ができる「対馬STORY」をオープンし、加えてゲストハウスや韓国料理のテイクアウト店を運営。市と連携して、市民向けの文化交流プログラムなどの企画もしている。