一目惚れした利尻島をウイスキーに

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利尻島北海道

Kamui Whisky K.K.代表取締役社長

ケイシー・ウォール

CASEY WAHL

好奇心旺盛な幼少期から
来日に至るまで

父親の仕事の都合で1歳から16歳まではサウジアラビアで、高校進学のタイミングでアメリカに戻りました。幼い頃からの夢は、“国際的に活躍するビジネスマン”。元々冒険心が強かったので、中東やアメリカ、ヨーロッパとは、全く異なる文化を持つ日本に興味がありました。高校•大学在学中にはアメリカで日本語の学位を取り、就職のために来日。大分県の中津市で中学校の英語の先生していました。日本に来た当初は、私のことを物珍しそうにする地元の子ども達や、まだまだ英語表記の看板が少なかったため、生活に苦労することも多かったです。そんな初めての日本での田舎暮らしでしたが、中津は第2の故郷と思えるくらい今でも大好きな場所になりました。その後、人材スカウトの仕事を経て、人材紹介会社を立ち上げました。

利尻島とのつながりを求めて
蒸留所設立を決意

10代の頃、友達に会うためによく訪れたスコットランドのアイラ島。小さな島ですが、有名なウイスキー蒸留所がいくつもある“ウイスキーの聖地”です。友人の家の近くにも英国王室御用達である「ラフロイグ蒸留所」があり、そういった蒸留所を度々訪れていたため、ウイスキーはとても身近なものでした。私が利尻島を初めて訪れたのは、2015年。日頃の疲れを癒すため、家族と観光に訪れていました。そこで出会った利尻島の美しい自然が、個人的に思い入れのあるアイラ島を彷彿とさせ、一目惚れでした。利尻島をバスで回っている間、「利尻島に移住するとしたらこんなことができるね」と話がどんどん膨らみ、帰る時には「利尻島と何かつながりを持ちたい!」と、ウイスキー蒸留所の設立を決意。そんな「利尻島が大好きだ」という情熱から、「Kamui Whisky K.K.」のプロジェクトが始まりました。

諦めない精神で乗り越えた
設立までの険しい道のり

利尻島に蒸留所を設立するまでには、さまざまな困難がありました。まず住居の確保、蒸留所を建設するための土地の入手が非常に困難でした。小さい島ながらに開けている印象の利尻島は、利用されていない土地が多いように見えますが、実際に売りに出されている土地はほとんどありません。使用されていない土地でも、100年以上前に生きていた人の名前で登記されているなど、土地を譲り受けることも一筋縄ではいかないというのが現状でした。また利尻島は漁業と観光業が主な産業の小さな島なので、蒸留所を建設するという初めての試みに対して、地元の方の理解を得ることは大変難しかったです。興味を持ってくれた人を一人ひとり、何度も訪れて説得する日々でした。島民のほとんどは定職についており、働くスタッフが簡単には集まらなかったことも、島民の皆さんから信用や賛同を得ることが難しかった要因の一つ。蒸留所の建物ができあがりプロジェクトが形になっていくにつれ、徐々に計画に賛同する人が増えてきました。毎年夏に開催している「カムイフェスティバル」が、テレビで取り上げられたことをきっかけに、今では多くの人に理解してもらえるようになりました。

利尻島の情景を届ける
ウイスキーづくり

私が大好きな利尻島は、日本のほかの地域にはない憂鬱や哀愁を抱き締めるような空気感に包まれています。大地に風が吹いているだけで幸せな気持ちになるので、利尻島の中でも特に「風」が好きです。その風の強さやきれいな湯水、年間の気温差が大きい利尻島の気候が、ウイスキーの熟成や味わいをより良いものにしていきます。私たちが理想とするウイスキーは、一口飲んだ時に利尻島の美しい情景が自然と浮かんでくる味わい。「Kamui Whisky K.K.」は私の利尻島に対する情熱から始まったプロジェクトなので、「利尻島をボトルに詰めたい」という想いで取り組んでいます。現在発売している「神居ウイスキー」は、一つひとつ丁寧につくるために少量生産をしていますが、ありがたいことに大変好評をいただいております。徐々に多くの人に知っていただき、蒸留所を目的に島を訪れてくださる方も増えました。今後は、ふらっと立ち寄った南米の小さなバーで「神居ウイスキー」が置いてあったら、手に取った人に「利尻島のブランド」だと認知してもらえるような、世界中で知ってもらえるようなブランドを目指しています。2026年には、新たなジャパニーズウイスキーの販売を予定しているので、大切な人と一緒に利尻島の夕日を見ながら、利尻島のテロワール※を感じてください。
※テロワール:土壌や気候などといった原料の育てられる環境を指す言葉。原料となるモルトや仕込み水、熟成環境などがウイスキーの風味に与える影響を指すこともある。

アメリカ•ニューヨーク州出身、大学卒業後日本に移住。Kamui Whisky K.K.の代表を務めるほかに、人材紹介会社の経営や書籍の執筆、映画の脚本を手掛けるなど、その活躍は多岐にわたる。