子どもたちの未来を想って
礼文島の日常に豊かさを
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礼文島北海道
週末パン屋さん・カフカ製パン/
creation team BAKE代表
倉田勇生/倉田ちほ
YUKI KURATA/CHIHO KURATA
人の温かさに魅了された
ご夫婦の出会い
ちほ:20代のころ、本や写真で見た景色や話に聞いた景色を実際に目にしたり、体験することが好きで、国内外を問わず旅をしていました。
礼文島との出会いは、日本一周を終えて礼文島で働く友人の元を訪れたこと。友人に“好きだと思うよ”と言われまんまとハマったのが島内西海岸にある「桃岩荘」というユースホステルでした。
ドラマチックな船のお見送りや、関わる島の人の温かさに触れ、翌年から「桃岩荘」で働くことに。自転車旅の途中だった夫が、私が働いていた年の「桃岩荘」に宿泊したことが私たちの出会いでした。
勇生:私は仙台出身ですが、鹿児島県沖永良部島で働いていたことがあります。そこでの仕事を終えるころ、勢いに任せて“自転車で仙台に帰ろうか”と言ったら、同僚たちの方が盛り上がってしまい、引くに引けなくなって自転車旅をはじめることに。徐々に北上していき、滞在していた富良野で礼文島「桃岩荘」の噂を聞きつけ、恐る恐る島に渡りました。
「桃岩荘」での出会いだけでなく、2014年の大雨をきっかけとした地域の方々との関わりや、島の自然に魅了され、夏は「桃岩荘」、冬は建設業をしながら約2年半を過ごしました。
島を離れても忘れられなかった
念願の礼文島移住
勇生:数年間一緒に働いた「桃岩荘」での仕事を終えたすぐ後に結婚し、その当初は埼玉で暮らしていました。そのころから2人とも、“いずれは礼文島に戻って暮らしたい”と、同じ思いを持っていました。
埼玉には約5年間住んでいましたが、新型コロナウイルスが落ち着き始めたタイミングで、夫婦ともに地域おこし協力隊として家族で島に戻り、退任後はそれぞれ仕事を持ちながら現在移住3年目を過ごしています。
ちほ:礼文島に戻りたいと思った理由は、島の自然やお花や景色が夏も冬も大好きだったことと、会いたい人たちがとにかく島にたくさんいたことです。旅中に人の温かさに触れることって、ありがたいことに少なくないのですが、礼文島には、毎日会ってもおもしろく、やさしく、大好きな人たちばかりで、特別な思い出もたくさん。帰ってきたいと思うのは私たちにとっては自然なことだったと思います。
また、よく冬の礼文島について“天候は荒れるし、波も高くて船は出ないし、人もほとんど歩いていない。つまらなくて寂しいだけだよ”なんて言われていましたが、個人的には冬こそ美しく、たまの晴れた島の美しさを見ただけで、それまでの吹雪の日々なんて忘れてしまうくらい、ご褒美のような景色だと思っています。
夫と2人で過ごした冬も、星を見に行ったり、ソリで滑ったり、凍った湖(島の北部にある久種湖)の上を歩いたり、幸せなことばかりでしたが、子どもたちが生まれて家族で過ごす礼文島の冬は、ある程度吹雪いていても雪遊びやスキー教室などを楽しみながら、想像以上に充実した日々を過ごしています。
勇生:結婚して戻ってくる前、1人で過ごしていた冬は吹雪で外にも出られず、窓の外にあった温泉の明かりが消えるのを見てから寝るなど孤独を感じていました(笑)
孤独な冬を過ごした後の春が訪れる喜びは、なんとも言えない、ここでしか味わえない感情だと思います。
より心地いい島暮らしを目指して
クリエイションチーム「BAKE」を設立
ちほ:島での子育ては、地域の皆さまに見守られながら子どもたちを育てている感覚があり、より密接に地域の方々と関わるきっかけにもなっています。
仕事•育児などを通して関わるさまざまな方と話していると、“離島に暮らす不便さや暮らしの難しさ、都会だったらこんなこともあるよね/できるよね”など、悩みや、求めていることを話す機会も多いです。
日常生活でもやもやすることは、どこでどんな暮らしをしていても多かれ少なかれあることだと思いますが、私自身が子育てで、思うように進まない毎日を過ごしている時に、突然お菓子づくりに没頭することが度々あり(笑)、実はその行動こそが「Anxiety Baking」というストレス発散方法であることを知りました。
抱える不満を吐露したり、考えても考えても結果が出ない日々の中にいると、一発行動を起こして、目に見える成果を出せた時に、精神的にとてもスッキリするのだとか。
“言われてみれば。ならやってみよう!”
ということで始まったのが、ごちゃごちゃもやもやする前に、とにかく行動してみよう!をキーワードに活動する「creation team BAKE」(2023年設立)になります。
まず何がしたいかを考えた時に、“自分の大好きな島を、大好きな景色を、できるだけ綺麗にしていきたい”と思い、現在は「BAKEボランティアクリーン部」が活動の中心となっています。
SNSを中心に呼びかけ参加者を募り、夏季(4月〜雪が降る11月ごろまで)毎月1回、毎回場所を変えながら、島内のゴミ拾いを行っています。
今年6月には、道内で活動するNPO法人HAPPY NEW EARTHさんと礼文島観光協会の共同開催する礼文島屈指の観光地•澄海岬のゴミ拾いに「BAKE」も協力として参加しました。
ゴミ拾いはゴミ拾いだけにあらず。初対面の人同士のコミュニケーションを生み出し、いろんなアイデアを共有しながら、わいわい会話を楽しみました。実際に冬季のイベント開催まで実るなど、より多くの可能性を秘めた場になっていると実感しています。島の人たちの参加が広がり、子どもたちが大きくなった時にも、ここに住むのがおもしろく誇らしい、美しい島であることを目指していきます。
大好きな島の魅力を
パンに詰め込んで届ける
勇生:香深港フェリーターミナル近くの「Cafe Ru-we」さんで働きながら、週末限定でパンの製造•販売を行っています。礼文島移住前に暮らしていた埼玉では、祖父母が始めて今なお父や伯父が営むパン屋で、職人として5年間勤めていました。移住後、協力隊に在任している間もイベントなどでパンを提供するなど、作る機会を持ち続け、退任後の今年、島内で別の仕事をしながら週末のみパンを提供しています。
定番になりつつある「ミルクフランス」をはじめ、島で採れるよもぎを使った「島よもぎあんぱん」や、利尻昆布の出汁で旨味を生かした「利尻昆布バゲット」なども好評をいただき、ありがたいことに毎週末完売が続いています。独立して自分の店を持つ、とした時に、礼文島以外でお店を開くイメージがなく、島での暮らしを今より少しでも豊かに感じてもらえたり、観光に来ても楽しめるパン、島を出ても誇れる礼文島のパン屋、を目指しています。
2025年の春には「Cafe Ru-we」さんの近くに、目標であった自分の店を開く予定です。島の方や観光の方にも喜んでもらえるパンづくりをこれからも続けていきたいです。
ちほ:“今の島の良さを残しながら、足りないものや困っていることはアイデアで楽しみつつ補い、一つずつ形にしていって、自分たちも地域づくりに参加しようと思えばいくらでもやれることがある•できる”というのがこの島の魅力でもあると感じています。
礼文島は一度訪れるだけでなく、何度も来られるリピーターの方がとても多い島です。訪れる時期によって咲いているお花の種類も変わり、霧の礼文•雨の礼文•晴れの礼文•雪の礼文、どんな時も美しいです。
考えるよりとにかく行動。まずは一度訪れてみて、それから、たくさんの理由をつけて、ぜひ、何度も何度も訪れてください。
旅をきっかけに礼文島で出会った倉田ご夫婦。仕事の都合で、一度はご家族で埼玉へ。2021年に地域おこし協力隊として、礼文島へ移住。ご主人は2025年春にカフカ製パンをオープン予定で、奥さまはクリエーションチームBAKE代表を務める。