心惹かれた美しい礼文島で目指す地域創生
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礼文島北海道
ネイチャーフォトグラファー
柏倉 陽介
YOSUKE KASHIWAKURA
編集者からネイチャーフォトグラファーへ
大学探検部時代の夢を実現
23歳でフリーランスの編集者としてキャリアをスタートさせた僕は、尊敬する編集者の師匠から色々教わっていました。元々、大学時代に所属していた大学探検部で大自然に触れ、その魅力に惹かれて、“いつか自然系の雑誌を作りたい”という夢をその当時から抱いていましたね。何年か編集者を続けていく中で、ある時体調を崩したことを機に、「編集だけでなく、自分で文章も、写真も全部やってみよう」と決意し、初めてカメラを購入して西表島に向かいました。そこでの撮影がカメラマンとしてのスタートとなり、師匠に見せた写真が高く評価され、実際に雑誌へ掲載される機会を得ました。その後、ネイチャースポーツの雑誌に「アドベンチャーレース」のカメラマンとして起用され、海外での撮影も増加。29歳の時には、カメラマガジンの特集で”君も世界の写真賞に応募してみよう”というのがあって、自然風景や野生動物を対象とした国際的なフォトコンテスト「Nature's Best Photography Award」に応募したら、なんと入賞。アメリカのワシントンDCにある「スミソニアン自然史博物館」で展示されることに。これをきっかけに、ネイチャーフォトグラファーとしての活動が本格化しました。
自然風景の撮影に魅了された屋久島
この風景に住みたいと思った礼文島
国際フォトコンテストに入賞したあたりから、屋久島をテーマにした撮影に挑戦するようになりました。登山ガイドさんと共に、風の音しかない、星だけが輝いている誰もいない大自然の中で、静かに撮影する時間は贅沢そのもので、風景と時間の流れを写真に収めたいと考えながら撮影することに魅了されました。こういった経験から、レース撮影よりも屋久島の森や星空を撮ることに心が惹かれるようになり、屋久島に住むことを真剣に考え始めましたね。
それからしばらくして、2021年に礼文島で撮影の仕事が入ったんです。最北端の島のさらに最北西端にあるゴロタ岬へ夕暮れ時に登ると、なだらかな丘陵地帯と、半島の突端にある集落が一望でき、その風景に心動かされました。この感動から「風景の中に住みたい」と思い、空き家バンクで調べた結果、1軒だけ空き家を発見。“礼文島の風景の中に住みたいです”みたいな小学生の作文のようですが、率直な気持ちを添えて応募したところ、幸いにも家のオーナーから新しい家主に選んでいただき、礼文島での生活の第一歩を踏み出しました。
礼文島の満天の星空を多くの人へ
「星空観賞区」を作る取り組み
礼文島を新たな拠点に、現在は礼文島と神奈川の2拠点で活動しています。礼文島にいる時も、カメラマンとして島のポスターなどを撮らせてもらったりしているんですが、特に力を入れているのは、礼文島の最北端にあるスコトン岬を「星空観賞区」として人々が集まる場所にする活動です。星が非常に美しいこの場所で、ただ静かに星空を楽しむ場を提供することを目指しています。
礼文島の人口は現在2000人程度で、20年後には1000人を下回る可能性があります。今後さらに礼文島への移住を推進していくと思いますが、僕もオーナーと一緒に、礼文島の活性についてアイデアを話し合ったりもしますね。
礼文島に来て3年目になり、集落でのバーベキューに招待され、地域の方々と深い話をする機会がありました。この交流を通じて、星空観賞区の構想も伝えることができ、少しずつですが前進しています。星を眺める場を作ることに対しては、使命感というよりも、純粋に楽しい!という気持ちで取り組んでいて、今はカメラマンとしての活動以上に楽しさを感じているかもしれません(笑)時折星空を撮る写真教室も行っていて、星空を見た人の「うわーっ!」と感動している表情は本当に素敵だなと思います。礼文島だから眺められる美しい星空の景色を、より多くの人に伝えられる星空観賞区を作っていきたいです。
ボルネオ島で撮った自然環境問題と
地域創生への想い
15年以上前に行ったボルネオ島での取材撮影がきっかけで、オランウータンやその環境に対して深い関心を抱きました。親をなくし孤児となったオランウータンのリハビリテーション風景の撮影を続けながら、15年をかけて2024年にドキュメンタリー写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』を発表できました。ネイチャーフォトグラファーとして、ボルネオ島の環境問題やオランウータンの保護について、今後ももっと多くの人に知ってもらう活動は続けていきます。
さらに、来年からは大学院で地域創生について学ぶ予定です。カメラマンとしてだけでなく、地域の発展という視点からも礼文島へ貢献したいと考えています。 地域の方と一緒に考え、盛り上げていきたいですね。自分が実現したいとイメージする世界を持ち続けながら、無我夢中に向かっていこうと思います。
1978年生まれ。礼文島と神奈川を拠点に、ネイチャーフォトグラファーとして自然に関わる分野を幅広く撮影している。米国立スミソニアン自然史博物館、ロンドン自然史博物館、国連気候変動枠組条約締約国会議などで環境をテーマとした作品を展示。2024年3月、オランウータン孤児のドキュメンタリー写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』を発表。