MOUNTAIN 2024.01.25

花々が咲き誇る最北の礼文島。
野趣に富む
「礼文トレイルセブン」の魅力と誘い

全国各地から数多くのトレッカーが集まる「礼文島」。島内には礼文島トレイルセブンという7つのバリエーション豊かなコースが整備されており、野趣に富んだトレッキングを楽しめます。今回はそんな礼文島トレッキングの魅力とおすすめのコースをご紹介!

土庄 雄平
(トラベルライター)
商社・メーカー・IT企業と営業職で渡り歩きながら、複業トラベルライターとして活動する。メインテーマは山と自転車。旅の原点となった小豆島、転職のきっかけをくれた久米島など、人生の岐路にはいつも離島との出会いがある。
原生の自然が根付く。
最果ての花の浮島「礼文島」

北海道・稚内市から北西60kmの海上にある、日本最北の離島「礼文島」。約80km
の面積を有しており、平地や小山からなる壮大な地形が展開します。利尻山(りしりさん、標高1,721m)を見渡す南部の稜線や、西海岸の断崖地形や海へ注ぐ滝、複雑に入り組んだ北部の岬など、一つの島の中に、さまざまな表情を見られるのが魅力です。また島の最高峰は礼文岳(れぶんだけ、標高490m)で、低山で構成される礼文島ですが、本州の標高2,500mに匹敵する冷涼な気候条件となっており、夏から秋にかけて約300種類の高山植物が咲き誇ります。レブンアツモリソウやレブンウスユキソウなど固有種も多く、可憐な花々は訪れる人を魅了して止みません。かつて高山植物の宝庫であるユーラシア大陸とつながっていた時の、原生の自然の姿が今でも守られ根付いています。

未知との遭遇の連続。
冒険心を刺激する「礼文島トレイルセブン」

壮大な地形と美しい高山植物が織りなす礼文島には、「礼文島トレイルセブン」という7つのトレッキングコースが整備されています。歩行距離や難易度、出会える景色もさまざまで、礼文島は”全国のトレッカーにとって憧れの島”だと言えるでしょう。全て踏破するのは体力と日程が必要な上、島内の移動を考えるのも一苦労ですが、「ああでもない、こうでもない」などと言いながら考えて、パズルのようにスケジュールを組むのも、島旅ならではの楽しさです。また手付かずの自然の中を歩けば、普段の生活では出会えない未知との遭遇ばかりで、絶えず冒険心が刺激されます。時間帯や天気によっても全く違う趣を醸し出し、一期一会の景色を楽しむことも可能です。それでは、そんな飽くなき魅力を備えた礼文島セブントレイルの中から、筆者おすすめのコースを4つご紹介したいと思います。

岬めぐりコース |3つの岬を歩く。
壮大な地形と花々を愛でる王道トレッキングコース

礼文島トレイルセブンのなかで、最も人気なコースの一つが「岬めぐりコース」です。礼文島の最北端のスコトン岬からゴロタ岬、澄海(すかい)岬を抜け、レブンアツモリソウ群生地を経由して浜中へと続く全長約12.4kmのコースとなっています。久種湖畔にある数軒の旅館かキャンプ場に宿泊して、路線バスでスコトン岬までアクセスしてから歩き始めるのが定番です。ダイナミックな地形を見渡しながら、最果ての旅情が漂う草原の中を歩き、色とりどりの高山植物を鑑賞できる道は、まさに礼文島を象徴するトレッキングコース。中でもコースの最高峰であるゴロタ山(標高約180m)から振り返るスコトン岬の風景が絶景です。その後、長大な海岸線の道を降りて鉄府(てっぷ)の集落まで至ったら、最後の目的地まであと少し。”礼文ブルー”と言われる、宝石のように美しい入江を持つ澄海岬が待っています。夏には澄海岬の売店でいただける生ウニ丼が名物です。

桃岩展望コース|利尻山と西海岸のパノラマ。
天空の稜線を歩くトレッキングコース

岬めぐりコースと同じく、最も人気なもう一つのコースが「桃岩展望コース」です。礼文島唯一の港・香深港フェリーターミナルをスタートし、桃岩展望台から元地灯台をつないで、南部の知床へと続く全長約6.4kmのコースとなっています。5/1〜9/15までの期間、香深港フェリーターミナルから桃岩登山口まで路線バスが運行しており、一部ショートカットすることも可能です。フェリーターミナルから約40分、桃岩展望台に到着すると、ダイナミックな地形に引き込まれる絶景パノラマが広がります。反対側には、洋上の富士山・利尻山がそびえ立ち、足元に目をやれば可愛らしい高山植物の群落。さながら”最果ての楽園”とでも呼びたくなる雰囲気です。桃岩展望台から元地灯台までの2.5kmは、天空を歩いているような縦走路。香深港フェリーターミナルに出入りする船もはるか下に感じられます。途中に通過するキンバイの谷から眺める西部海岸はRPGのよう。礼文島の隔絶した自然を物語っています。

礼文岳コース|知る人ぞ知る百名山。
島の最高峰・礼文岳を目指すトレッキングコース

利尻島の最高峰にして、日本百名山の一つ「利尻山(りしりさん、標高1,721m)」。この山を登ることだけを目的に、利尻島・礼文島を訪れる登山愛好家も多いですが、実は礼文島にも知る人ぞ知る名山が存在します。それが、新日本百名山や花の百名山、北海道百名山など、あらゆる選定でも取り上げられている、礼文島の最高峰「礼文岳(れぶんだけ、標高490m)」です。礼文トレイルセブンの一つ「礼文岳コース」は、礼文島東海岸の内路(ないろ)地区から礼文岳山頂を目指す往復約9kmのコースとなっています。前半は静かな樹林帯歩きの道が続きますが、所々咲く高山植物が可愛らしく、標高350mを越えると劇的に景色が変化します。周囲はハイマツが覆う高山帯になり、島を360度にわたって一望。山頂から望むスコトン岬やゴロタ岬は、まるで絵画のような美しさで、光の加減で刻々と表情が変化していきます。晴れることは珍しいですが、それもまた一興。高山植物を育む美しくも厳しい自然を全身で体感できますよ。

8時間コース|手付かずの西海岸を歩く。
アドベンチャーな絶景トレッキングコース

舗装路が開通していない礼文島西部海岸を歩く「8時間コース」。礼文トレイルセブンの中でも難易度が高いとされ、玄人向きのコースです。北部の岬めぐりコースとの分岐点から、礼文島西海岸のアナマ岩、宇遠内漁港を通過、礼文林道コースとの分岐点を経由して、香深井(かふかい)を目指す全長約16.5kmのトレッキングコースとなっています。体力を必要とする細かなアップダウンが連続するほか、一部、高潮時には危険な箇所があり、入念な計画や準備が必須です。しかし、唯一無二の景色変化と歩きごたえがあり、他のコースとは一線を画す大冒険が待っています。前半は雄大な笹原の道、3つの岬を同時に見渡すパノラマを楽しんだ後、深い樹林帯をひたすら進みます。アナマ岩近くまで来ると、海に吸い込まれるような迫力のある下り、ゴツゴツとした海岸線を歩き、宇遠内漁港へ。スリリングな道を越えて、「ようやく人のいる場所まで戻ってきた」という安堵感が得られるのも、普段の生活では味わえない非日常な経験です。

久種湖畔コース|ついでに楽しみたい。
静かな自然に癒されるトレッキングコース

岬めぐりコースや8時間コースを歩くため、拠点にすることの多い日本最北の湖・久種湖(くしゅこ)周辺。実はそんな久種湖畔にも、初心者向けのトレッキングコースが整備されています。久種湖畔キャンプ場を起終点として、久種湖を周回する全長約4.2kmのコースです。このコースが目的というより、他のトレッキングコースを楽しみながら、すきま時間を利用して、手軽に歩くのがオススメ。ミズバショウをはじめとする礼文島では珍しい湿地性の植物や、春と秋に訪れる多様な渡り鳥を観察できます。特に、ひんやりとした気温のなか、緑のトンネルと静かな湖面に癒される、早朝の時間に訪れてみてはいかがでしょうか。

今回は北限の島「礼文島」のトレッキング旅をご紹介しました。一見ハードルが高そうですが、事前にしっかり計画を立てれば、初心者ハイカーの方でも十分に歩き切ることができます。一方で8時間コースに挑む方は、当日の礼文島周辺の潮位を調べ、各ポイントの通過時間をあらかじめ想定できると良いでしょう。ぜひ皆さんも、飽くなき冒険心を解放できる「礼文島」を歩いてみてはいかがでしょうか。