OTHER 2023.12.28

瀬戸内のハワイ「周防大島」
一周自転車旅
〜番外編でしまなみアイランドホッピング〜

瀬戸内海で自転車一周が有名な離島といえば、淡路島や小豆島が挙げられますが、実はもう一つおすすめしたいのが山口県「周防大島」です。美しい海を見渡し、素朴な島の風情を楽しむ一周サイクリングが密かに注目されています。

土庄 雄平
(トラベルライター)
商社・メーカー・IT企業と営業職で渡り歩きながら、複業トラベルライターとして活動する。メインテーマは山と自転車。旅の原点となった小豆島、転職のきっかけをくれた久米島など、人生の岐路にはいつも離島との出会いがある。
知る人ぞ知るサイクリストの聖地
「周防大島」一周

瀬戸内海で淡路島、小豆島に続いて3番目の面積を誇る「周防大島」。正式には屋代島(やしろじま)という名称です。もともと船でしか行けない離島でしたが、1976年に大島大橋が開通し、2011年に無料化されたことで、自転車でも渡れるようになりました。それから瀬戸内の中でも格別に美しい海の景色や、適度にアップダウンがある走りごたえ抜群のコースが人気となり、一周するサイクリストが増えていきます。日本のハワイと呼ばれる異国情緒漂うロケーションも魅力の一つです。現在では島一周を走る「サザンセト・ロングライド in やまぐち」や「シマクル」といったサイクリングイベントも開催されるようになりました。今回はそんな近年人気のサイクルアイランド「周防大島」を私も走ってきたので、少しご紹介したいと思います。

出発は柳井から。
朝日の大島大橋を走って一周スタート

スタート地点としておすすめなのは、JR山陽本線「柳井駅(やないえき)」。新幹線で広島駅や新山口駅までアクセスし、在来線に乗り換えると良いでしょう。自転車を折りたたんで専用の袋に入れる「輪行」を活用します。見知らぬ土地に、自転車一つで降り立つという経験は非日常ですね。朝日が昇る前から自転車を組み立てたら、周防大島へ向けて国道188号線をウォーミングアップ感覚で走ります。早朝の時間帯ということもあり、幹線道路でもスイスイ。道中、瀬戸内の多島美から出てくる朝日に見惚れました。そしていよいよ「大島大橋」へ。歩道も設けられているので安心。ふわっとした朝の光に包まれ、ゆったりとペダルを漕いでいきます。橋の下は、実は大畠の瀬戸と呼ばれる、日本三大潮流が流れる場所。この日は穏やかでしたが、ダイナミックな渦潮を眺められることもあるのだとか。それでは周防大島一周のスタートです。

自転車で走る楽しさに浸る。
爽快な国道437号線と寄り道スポット

島の一周サイクリングでは、時計回りに走るのが基本。なぜなら海をより近くに眺めることができ、写真撮影のために立ち止まりやすいためです。まずは島の北側、国道437号線をひたすら東へ向かいます。ちなみにこの国道437号線なのですが、一部の区間が、防予フェリーの航路(伊保田〜三津浜)に該当しているユニークな国道としても知られています。周防大島一周の特徴は、それほど立ち寄りスポットが多くないということ。そのため観光よりもサイクリングそのものに集中できます。また何と言っても素晴らしいのが道中の景色です。随所で展望が開け、絵になる瀬戸内海や、そこを行き交う船、美しい多島美やこじんまり漁船の停泊場など、旅情あふれるワンシーンが連続します。途中で立ち寄ったのは2箇所。まずは「道の駅サザンセトとうわ」です。ここでは名物の「みかんソフト」を食べられます。優しい甘さと爽快さがたまりません。続いて訪れたのは「陸奥記念館」です。博物館に立ち寄る時間がなかったものの、屋外に展示されている戦艦陸奥の副砲・スクリュー・艦首部分を見学しました。戦争時代の悲劇を目の当たりにすると、現代に生きる私たちにとっても決して他人事だと思ってはいけないと考えさせられますね。

アップダウンと絶景の連続。
瀬戸内の原風景が根付く南部へ

国道437号線を走り抜けたら県道60号線に沿って島の南側へ。ストレスフリーで快走路が続いた北部とは異なり、狭く入り組んだ道へと変わっていきます。しかし、生活感が感じられる路地裏、どこか懐かしい田舎のにおいが感じられる集落、停まっている軽トラックと漁船など、瀬戸内の原風景に溶け込んで走る時間が趣深いです。また真っ青な大海原が続く北部とは異なり、随所に美しいエメラルドグリーンの入江を見ることもできます。ストレートの道と大海原、ワインディングの道と入江。これが周防大島の南北の道がみせる二つの顔です。また島の南部には貸別荘も点在し、どこか海外のリゾート地のような趣もあります。見応えのある景色とともに走りごたえも増しますが、ここが正念場です。途中に小さな岬がありますが、その道を登り切ると、周防大島南部の海岸線を一望できます。空と海、島の地形まで一気に開け、瀬戸内海らしい素朴な風景が広がると、身体を伸ばしながら深呼吸をしたくなります。登った分、しっかりと下りがあるのもサイクリングの楽しみの一つです。風を切って、小泊(こどまり)の集落まで爽快なダウンヒルを終えたら、瀬戸内の海道らしい風景に思わず目を奪われました。

瀬戸内のハワイを満喫。
自分の殻を破って周防大島一周完了

南部の見所は、小泊の集落を過ぎたところにある「片添ヶ浜海水浴場」。周防大島の中でも随一の海の透明度を誇り、穏やかな瀬戸内海の風情を存分に感じられる場所です。ヤシ並木も調和して、”瀬戸内のハワイ”と呼ばれる風景が広がります。そしてもう一つ、知る人ぞ知るフォトスポットが「厳島神社」です。透き通った波打ち際と共演する朱色の鳥居。砂浜に降りて、ゆっくりと海を眺めました。自転車に乗っても降りても癒しに満ちた周防大島。サイクリストの聖地を十分に満喫できました。いよいよ後半をむかえますが、ここからは少し急ぎ足。というのもゴールの柳井から三津浜(愛媛県)へ渡るためです。実は周防大島ですが、柳井〜三津浜の防府フェリーを利用すれば、しまなみ海道とのアイランドホッピングの旅を楽しめます。アップダウンも多く向かい風も強かったのですが、16時5分発のフェリーに間に合うように一心不乱に走りました。自分の限界を突破するというのも、自転車旅ならではの魅力の一つですね(笑)。終わってみれば充実感で満たされます。最後は少し時間が余ったので、柳井の町並みを散策しました。瀬戸内では要所に昔ながらの町並みが根付いていて、ふと歴史景観へタイムスリップするような時間を過ごせて味わい深いですね。スタートから約8時間、柳井を起点にして周防大島の一周を完了できました。

【番外編】目指すは自転車神社。
しまなみ海道アイランドホッピング

周防大島一周の番外編にはなりますが、前に触れたように柳井〜三津浜(愛媛県)まで防府フェリーで渡り、翌日にはしまなみ海道へのアイランドホッピングを楽しみました。フェリーの船上から眺める瀬戸内海のサンセットが美しく、周防大島一周の最高の締めくくりに。また三津浜から松山市街から10km弱と近いので、少しナイトライドを楽しんでゲストハウスへチェックイン。普段は混んでいる道後温泉本館ですが、23時前の時間は空いていますよ。翌日はJR松山駅から輪行を利用して、JR波止浜(はとはま)駅へ。白い橋と海の織りなす「しまなみ海道」を走って、最後はサイクリストの聖地の自転車神社・大山神社へお参りしました。旅の途中に参拝するときはいつも「最後まで素晴らしい旅になりますように」とお祈りしています。結果的に、瀬戸内と島を楽しみ尽くした最高の旅となりました。

今回は「周防大島」一周自転車旅をレポートしながら、翌日に行った「しまなみ海道」アイランドホッピングについても簡単にご紹介しました。島と自転車の可能性は無限大。実にいろいろなルートを引くことができます。遠く感じられる周防大島ですが、しまなみ海道と一緒に巡れるのは目から鱗ではないでしょうか。みなさんもぜひ自分ならではのオリジナルの旅のルートを考えてみてください。