SEA 2023.08.10

魅惑の船旅へ!
個性豊かな奄美群島を巡る
アイランドホッピング

ありのままの自然や珍しい動植物といった島の原風景が今なお残る奄美群島。8つの島で構成され、島ごとに異なる独自の文化や歴史、自然風景が広がっています。そんな奄美群島でおすすめしたいのが、船を使ったアイランドホッピングです。“島ごとの違い”を感じながら島々を巡る船旅の魅力や奄美群島を楽しむコツをお伝えします。

小林 希
((一社)日本旅客船協会の公認船旅アンバサダー)
元編集者で旅作家。2011年にサイバーエージェントの出版社を退職して、1年間世界放浪の旅へ。帰国後に本を出版して作家デビュー。これまでに海外70カ国、日本の離島を130島以上めぐり、旅や島、ネコなどをテーマに執筆活動を続ける。
何よりも旅情を感じられる
船旅という選択肢

海に囲まれた日本には、約400もの有人離島が存在しています。その島の一つひとつに独自の文化や歴史、言語が残されていて、“島ごとの違い”を見つけながら巡ると島旅がもっと楽しくなるはず。そういった意味でも、私はその違いを深く感じられる船旅が大好きです。目的の島に近づくと、どんどん変化していく海の色や肌で感じる気温。船から見えてくる島のカタチも全く違っていて、降り立った先に広がる島の風景にも期待が膨らみます。旅をするときの移動手段となると、多くの人は飛行機を思い浮かべるかもしれません。もちろん目的地へ短時間で行くことができる飛行機はとても便利ですが、船旅は長く時間がかかる分、船内には日常とは違ったスローな時間が流れ、島への距離をダイレクトに感じることができるのも面白いところです。船旅は、古くは臭い、揺れるといったネガティヴな印象をもたれがちでしたが、近年はマリックスラインの新造船をはじめとして、まるで「動くホテル」のような居心地の良さを実感できる船舶も増えています。
また船旅の楽しみ方として、おすすめなのが「御船印めぐり」。「御船印」とは神社仏閣でもらえる「御朱印」の船バージョンのことで、2021年4月に日本旅客船協会の公認事業としてスタートしました。現在は北海道から沖縄までの100社以上の船会社が参加しており、船によって異なる個性豊かなデザインを楽しめます。船旅の思い出として、ぜひコレクションしてみてください!

独自の自然風景や人々の暮らし
異なる表情を見せる島々

南北に広がる奄美群島は、奄美大島、加計呂麻島、与路島、請島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島の8つの有人離島と無数の無人島でできています。鹿児島の新港を出発し、どんどんと南へと進んでいく船の旅。最も沖縄に近い与論島へ近づくと、海の色がエメラルドグリーンに変わっていく様子を見ることができます。奄美群島の島々には沖縄の離島と比べて、観光地化されていない、ありのままののどかな風景が残されています。それがなんだか懐かしく感じて、ほっとする気持ちになったり、その中で暮らす島民たちとの出会いに癒されたり。奄美群島には島の原風景が広がり、本当の意味で島旅の良さを経験できる場所だと思います。
また島ごとに全く違った個性があることも、奄美群島の魅力のひとつ。海の色や島の形、街並み、島民の性格など、島によって異なる趣を感じられます。個性の違いを楽しむためにも、1回の旅でいくつかの島々を巡るアイランドホッピングに、ぜひ挑戦してみてほしいです。8島あるので滞在期間に合わせて、上陸する島と、上陸しないで船から見て楽しむ島を、分けて楽しむのもいいかもしれません。

加計呂麻島から始まった
奄美群島を巡る旅

私は奄美群島の中でも、奄美大島から船で20分ほどの場所にある加計呂麻島によく足を運んでいます。大好きな女将さんが営む宿があり、コロナ前は1年に3〜4回通っていたほど、お気に入りの島です。加計呂麻島に行けば、そこから与路島、請島へと向かうことができます。奄美大島からも船が出ていますが、途中の海域は潮の流れが早く、欠航率が高いことから行けたら奇跡とまで言われている島々です。そんなめったに行くことができない島には、かつての面影を色濃く残すサンゴの石垣が広がっています。あとは猫がたくさんいて、猫好きの私にはたまらない島です。
また、奄美群島の中で、一番大きな島である奄美大島は、マングローブ原生林が見どころです。マングローブがアーチ状のトンネルになっており、カヌーで進んでいくワクワク感。これほど大きなマングローブが存在するのは、奄美群島の中でもここだけです。街中は昭和レトロな雰囲気が漂っていて、こんな大きな島なのにロマンあふれる景観がまだ残っているんだと感動したのを覚えています。

奄美大島の隣、かつて特攻隊の経由地だった喜界島には、島中にその戦跡が残されています。旧海軍が使っていた飛行場が今の喜界空港になっており、春になると空港周辺には島民が飛行前の特攻隊員に贈ったテンニンギク(通称:特攻花)が咲き誇ります。また島では、喜界言葉を残していこうという保存活動にも力をいれていて、バス停は標準語と喜界語の両方の表記で書かれているので、そこも注目してみてほしいです。

徳之島は島民の生活に、闘牛が深く根付いています。島の一大イベントとして、年に3回ほど闘牛大会が開催されていて、闘牛たちはそれに向けて、日々トレーニングに励んでいます。実際に闘っている姿は見れなくても、夕方ごろに、海沿いや道端をお散歩する姿は見られるかもしれません。

沖永良部島では、地下と地上に広がる神秘的な世界を体験してほしいです。豊富な地下水が作り出した大小300ほどの鍾乳洞が存在し、ひんやりと冷たい水に浸かりながらケイビングを楽しむことができます。西郷隆盛が薩摩藩の重罪人として流刑された地で、島民と交流するなかで、「敬天愛人」の思想が芽生えた島とも言われています。歴史ロマンに触れられる島としてもおすすめです。

リゾート旅を楽しみたいという人には、与論島がおすすめ。与論島のエメラルドグリーンに輝く海の色は、奄美群島の中でも群を抜いて美しく、大潮の干潮時にだけぽっかりと浮かび上がる“幻のビーチ”など、目が覚めるような絶景が広がります。また先の大戦後、奄美群島が沖縄にさきがけて日本に復帰すると、沖縄と与論島の海上が国境でした。その穏やかで平和な海からは想像もつかないような、戦争の歴史も残る島です。

旅のコツは「1島につき1テーマ」
余白を残したプランニングを

限られた時間の中で何をするか迷ってしまうと思いますが、おすすめの旅プランとしては一島で一つ目的を決めて、それをクリアしていく感覚で楽しむこと。あれもこれも制覇しようとすると、スポットを回ることにエネルギーを使ってしまい、家に帰った時に「結局何をしたんだっけ?」「あの思い出はどこの島?」と各島の印象が薄くなってしまいがち。それよりは「自然に癒されてのんびりする」「とことん海で遊ぶ」「歴史を巡る」「会いたい島民に会いにいく」など、島ごとに一つテーマを決めて、アイランドホッピングしていくのが島旅を楽しむコツだと思います。例えば奄美群島でテーマを決めるなら「喜界島は南国フルーツをたくさん食べる」「沖永良部はエラブユリを見る」「徳之島は闘牛場へ行く」「与論島は百合ヶ浜に訪れる」「奄美大島は鶏飯を食べる」「加計呂麻島は宿の女将さんに会いにいく」「与路島は珊瑚の石垣景観を見る」「請島は上陸する」など。ただ、1回の島旅で奄美群島の魅力を知り尽くすのは難しく、季節やテーマを変えて、定期的に足を運ぶことで島の本当の魅力が見えてきます。
あとはスケジュールを詰め込みすぎず、余白を残したプランにすることで、島先で楽しいハプニングと巡り合う確率がぐっと上がります。ハプニングの中に潜んでいるのは、島民たちとの素敵な出会いや忘れられない経験の数々。自然や歴史、文化、食べ物、人…。自分が楽しみたいことをテーマにして、一生の思い出になるような島旅へと出かけてみてください。