MOUNTAIN 2023.08.07

瀬戸内の原風景を駆ける。「とびしま海道」自転車旅の魅力

サイクリストの聖地として有名なしまなみ海道と、ついをなすように位置する「とびしま海道」。実は”裏しまなみ海道”という愛称で親しまれ、密かに注目を集めています。今回は、観光地化されていない瀬戸内離島の原風景に出会えるとびしま海道サイクリングをご紹介!

土庄 雄平
(トラベルライター)
商社・メーカー・IT企業と営業職で渡り歩きながら、複業トラベルライターとして活動する。メインテーマは山と自転車。旅の原点となった小豆島、転職のきっかけをくれた久米島など、人生の岐路にはいつも離島との出会いがある。
しまなみ海道と一緒に訪れたい。裏しまなみこと「とびしま海道」

とびしま海道の正式名称は「安芸灘とびしま海道」。広島県の下蒲刈島、上蒲刈島、豊島、大崎下島から、愛媛県の岡村島まで大きく5島からなる海道です。しまなみ海道と異なる点は、海道の片側が橋でつながっていないところ。岡村島から東は、大三島と今治まで航路でつながっており、愛媛県側からアクセスする場合、一度船を利用する必要があります。とびしま海道一周は、約30kmと半日ほどで走れる内容であるほか、大三島はしまなみ海道の中継地、今治はゴールという立地から、しまなみ海道とセットで訪れるサイクリストの方も多いです。その両方をサイクリングすることで、瀬戸内の海道がもつ2つの側面を味わえます。しまなみ海道であれば、サイクリングを推奨する県らしく、ストレスフリーで快適な観光サイクリングが可能。一方で、とびしま海道はほとんど観光地化がなされておらず、島本来の漁村風景や時間に向き合う自然体のサイクリングを楽しめます。また尾道・今治・呉という3つの都市をつなぐことができ、より広がりのある自転車旅を組めるのもポイントです。

とびしまで1泊するなら大崎下島「GUESTHOUSE醫」がオススメ

大三島か今治から岡村島へ渡り、とびしま海道を走り抜けて本州までつなぐのが筆者にとって王道ルートになっています。とびしま海道へ入る日は、朝からしまなみ海道を走ることが多いため、とびしま海道に入るのは夕方が多く、とびしま海道で1泊するのが定番です。宿泊するのはいつも、大崎下島の「GUESTHOUSE醫(ゲストハウスくすし)」を利用しています。ゲストハウスのある大崎下島・御手洗地区は海上交通において大事な役割を担った「潮待ち」の港町。潮の流れが進行方向へ向くまで待つための要所のことです。現在でも、常夜燈や波止場、雁木などが残っていて、当時の歴史情緒に浸ることができます。そして実は、このゲストハウス自体も、レトロな街並み景観を構成する歴史資料というのもポイント。なんと大正時代に営業していた「レントゲン科越智醫院」を改築しています。往時を忍ばせるレトロな趣は残しつつも、広々としたドミトリーや共有スペースなど、快適な空間が演出されており、オーナーさんや他の宿泊者との談笑も楽しめます。運が良ければ、より深い地元のお話が聞けるかもしれません。

瀬戸内の原風景が根付く。アップダウンに富んだコース

一周約30kmなので、通り抜けとなると約15km。一見コンパクトな「とびしま海道」ですが、意外と走りごたえを備えています。その理由は、適度なアップダウンでしょう。例えば、しまなみ海道各橋のたもとは、緩やかな傾斜となるようにアプローチが設計されていますが、とびしま海道各橋のたもとは、そのまま車道と並走したアプローチになっています。そのため橋を通過するたびに、結構キツいアップダウンが現れるのですが、そのアップダウンこそ変化に富んだサイクリングをもたらしてくれるのです。息を上げながら橋まで辿り着き、頬を撫でる潮風と瀬戸内の多島美を楽しみつつ、次の島へ入ると同時に爽快感のたまらない下りへ。テンポの良いサイクリングは、自転車に乗るシンプルな喜びを感じさせてくれます。また道中が景色変化に富んでいる点も魅力の一つです。南国情緒を漂わせる岡村島の観音崎や、島の景色に吸い込まれるような豊島大橋、大崎下島の漁村風景や柑橘畑など、思わず息を呑む絶景や、瀬戸内の原風景とも呼びたくなる景色が次々と現れます。宝探し感覚で、カメラを持って自転車で走るのも楽しいです。

農道やグルメなど。ディープなとびしま海道の魅力に触れる

コンパクトな「とびしま海道」ですが、ディープな魅力も備えています。それが内陸の道と地元グルメです。とびしま海道は、柑橘類の名産地のため、内陸の斜面には広い柑橘畑が広がっています。その内陸には、各農家が収穫に使うための農道が設けられており、そこを自転車で走ることができるのです。もちろん自転車で走ることは想定されていないため、傾斜はキツく、何度もアップダウンが繰り返されます。サイクリングの負荷を上げたい方にとってはもってこいですし、海とはまた違う山の視点で島の景色を楽しめるので、少し寄り道をしてみるのもオススメです。中でも筆者が気に入っているのは、上蒲刈島にある「物見岩スカイライン」。奇岩が連なる高台から、瀬戸内のパノラマをダイナミックに見下ろせます。また地元で話題のマニアックなグルメスポットも点在しています。例えば、下蒲刈島にあるお好み焼きの名店「きしな」、太刀魚の出汁で作る豊島ラーメンで知られる「マリちゃん」など。唯一無二のグルメもさることながら、人情味を味わえるのもポイントです。

竹原の聖地巡礼を目指して。大崎上島へアイランドホッピング

最初に、しまなみ海道と一緒に「とびしま海道」を訪れるサイクリストが多いとご紹介しましたが、もう一つオススメしたいルートがあります。それが「大崎上島」へのアイランドホッピングです。大崎下島の小長港/御手洗港から、大崎上島の明石港まで航路でつながっており、大崎上島の垂水港/白水港はさらに竹原港まで航路でつながっているため、大崎下島〜大崎上島〜竹原というルートを組むことが可能です。道中は観光地らしい派手さはなく、ひたすらに昔ながらの漁村風景と美しい海が織りなす景色に癒されることができます。そして実は、大崎下島の御手洗地区も竹原も、ともにアニメ『たまゆら』の聖地という点もポイント。『たまゆら』は竹原を舞台としたアニメ作品で、”写真をメインの題材”としています。『たまゆら』を鑑賞してから、カメラを持って、とびしま海道〜大崎上島〜竹原を自転車でめぐると、旅が一層面白くなりますよ。

今回は、“裏しまなみ海道”として脚光を浴びてきている「とびしま海道」をご紹介しました。まだまだレンタサイクルや休憩スポットも少なく、やや玄人向きな場所ではありますが、しまなみ海道とはまた違う、旅情豊かなサイクリングを楽しめます。ぜひスケジュールを立てて、一度訪れてみてはいかがでしょうか。