MOUNTAIN 2023.07.26

全力で島を楽しむ「離島自転車一周」の魅力。自転車旅ライターおすすめの島3選

まるで一つ一つが国のように表情豊かな日本の離島。そんな島の魅力を最大限に楽しむツールの一つが「自転車」です。島の空気感に触れ、ディープな出会いのきっかけとなり、いつまでも記憶に残る時間を過ごせる「離島自転車一周」をご紹介します。

土庄 雄平
(トラベルライター)
商社・メーカー・IT企業と営業職で渡り歩きながら、複業トラベルライターとして活動する。メインテーマは山と自転車。旅の原点となった小豆島、転職のきっかけをくれた久米島など、人生の岐路にはいつも離島との出会いがある。
島を理解するツールとして。島旅と自転車の親和性

港に着いた途端、軽やかに自転車にまたがってペダルを漕ぐと、まるで島に暮らす一員に加わったかのような体験が待っています。心奪われるほど透き通った海や、旅情が高まる漁港の風景、時には「島の自然がこれほど壮大なスケールだったのか!?」と感じる経験も少なくありません。まさに”ありのままの島”を楽しむ上で、自転車はこれ以上ない遊び道具だと感じています。同時に、自転車には島を深掘りしていける側面もあるのではないでしょうか。小回りが効く自転車だからこそ「あの路地裏へ行ってみよう」「(何があるかわからないけれど、とりあえず)あの道の先まで行ってみよう」「ふと現れたお食事処に立ち寄ってみよう」など、フットワークが軽くなりやすいです。その結果、自分だけのお気に入りの場所を見つけたり、脳裏に焼きつく感動を覚えるシーンに出会うと、島旅の記憶がより充実したものになっていきます。時には「登れば登るほど絶景が待つ小豆島」「祈りの歴史と壮大な自然に溶け込む五島列島」など、その島に対して自分だけのオリジナルの解釈が生まれることも。島旅における自転車とは、自分の感性を解放し、島を理解するための最適なツールと言い換えても良いかもしれません。

走ることが手段から目的へ。「離島自転車一周」の魅力

日本各地には、大中小たくさんの島がありますが、その中で比較的大きな島を対象として盛り上がりを見せているのが「自転車一周」です。1日かけて離島を一周するロングライドを指し、関西のアワイチ(淡路島一周)を中心に人気を博しています。アワイチとは明石から船で淡路に渡り、東海岸線を南下した後、アップダウンに富んだ南淡路を抜け、淡路サンセットラインを北上する一周約160kmのコースです。走力のある方なら、何とか1日で一周できる走り応えのある内容ですが、ここにくると自転車の位置づけが少し変わってきます。先ほど自転車は島を楽しんだり、解釈するツール=手段だとお伝えしましたが、こうした自転車一周では自転車に乗ること自体も目的となってくるのです。島をできるだけ楽しみ、同時に走行時の爽快感や、完走時の達成感まで得たい。最も欲張りな島の楽しみ方こそ「自転車一周」と言えるでしょう。ただ時間が限られてくる側面もあります。なるべく巡航速度を上げられるロードバイクを使用したり、あらかじめタイムスケジュールを決めておくなど、効率よく最大限に楽しむための工夫も必要です。しかしこの点にも、何だかゲーム的な面白さもありますよ。


それでは次に、今まで50以上の離島を走ってきた筆者がオススメの自転車一周をご紹介したいと思います。

火山島の世界観に浸れる「伊豆大島一周」(約50km)

首都圏からもアクセスしやすい「伊豆大島」。東京品川の竹芝港から東海汽船のフェリーでアクセスでき、深夜便も運行しているため、土日休みなどでも手軽に自転車一周に挑戦することが可能です。一周約50kmという手頃な距離であり、海岸線には火山島らしい情緒を見せる景色の連続です。火山噴出物から身を守る避難シェルター、マグマが噴出して形成されたと言われる筆島、火口湖を切り開いた波浮港見晴台など、どこかRPGの中に迷い込んだような世界観を見せてくれます。中でも驚いたのは、島の西部にある地層切断面です。通称“大島のバームクーヘン”と呼ばれる地層面は、さながら台地に刻まれた年輪のよう。大島の活発な火山活動を物語っています。一周50kmほどと手軽なため、余裕があれば三原山ヒルクライムに挑戦してみるのもオススメ。「島の上に、こんな広い空間があったなんて...!!」と、思わず息を呑むダイナミックな風景が広がります。

様々な要素をつなぐ走り応え抜群の「小豆島一周」(約80km)

瀬戸内海に浮かぶ「小豆島」。こちらも神戸や高松、新岡山などから航路が整備されており、関西のサイクリストを中心に「マメイチ」として人気を博しています。中でも神戸から運行するジャンボフェリーには夜行便があり、弾丸スケジュールを組む際には重宝します。一周約80kmになる小豆島一周の魅力は大きく2つあります。1つ目は島内に色々な要素があるということ。瀬戸内国際芸術祭のアート作品や、エンジェルロード、映画・魔女の宅急便のロケ地となった小豆島オリーブ公園など、見どころがたくさんあり、一周するだけで一通り観光を楽しむことが可能です。2つ目は、海と山を繰り返す走り応えのあるコースになっているということ。島一周の獲得標高(自転車で走行している間の累積標高)約1,100mという数値が、山の島と呼ぶべき小豆島の地形を物語っています。中でも筆者が気に入っているのは、北部のダイナミックな採石場を見渡す区間と、瀬戸内の海道らしい情緒をみせる島の西部の前島エリアです。

祈りの島の情緒を味わい、壮大な自然を駆ける「福江島一周」(約100km)

九州の西の果て・五島列島の中でも一番南に位置する「福江島」。一周100kmのコースには、祈りの島らしい情緒が詰まっています。醍醐味は自転車旅の道中で、教会に気軽に立ち寄れること。自転車に乗ってダイレクトに五島の空気感に触れつつ、ふと教会の空間で内省に耽り、同時に五島の歴史に思いを馳せることができます。教会は集落ごとにあるので、休憩と兼ねて立ち寄るのがオススメです。また道中は、雄大な自然景観の連続でもあります。鬼岳の端正なスコリア丘や、日本一美しい海水浴場とも言われる高島海水浴場、三井楽の溶岩大地など、福江島だからこその壮大な世界観が味わえますよ。また今思うと運が良かったのですが、五島の人の良さを満喫できたのも魅力です。朝食をご馳走になるだけでなく家にまで宿泊させてくれたおばあちゃんや、気軽に声をかけて記念写真を撮ってくれた地元の若者など、一周を走った記憶の中で、人の温かさがいつまでも印象に残っています。

いかがでしたでしょうか。自転車に乗って全力で島旅を楽しむ「離島自転車一周」。島を完走したという達成感を得るのと同時に、数々出会った風景が映画フィルムの一コマのように、忘れられないストーリーとして思い出に残っていきます。ぜひ一度トライしてみてください。