サトウキビ畑が広がる島で唯一無二の黒糖づくり

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沖永良部島鹿児島県

まごころ製糖

平 そのみ

SONOMI TAIRA

70歳の父が始めた黒糖づくり
その想いを受け止めお店の継続を決意

もともと花農家をしていた父が「ずっとやってみたかった」という想いを実現させるため、70歳のときに始めた黒糖づくり。父は若いとき、徳之島で黒糖づくりの修行をしていた経験があり、そのときの記憶を呼び起こしながらレシピを作っていきました。その頃、私は島で別の仕事をしていましたが、仕事の合間に主人と黒糖工場へ訪れて、黒糖づくりを見て学ぶようになりました。そして、5年ほど前に父が作った「まごころ製糖」を引き継ぎ、現在は夫婦2人が主軸となって黒糖の生産と販売を行っています。作るのに手間がかかり、投資も必要な黒糖づくり。コロナ禍でお客さんが減ったときは「続けるか、続けないか」の話し合いになったこともありましたが、「父に大きくなったお店の姿を見せたい」という想いがあふれ、続けることを決意。お客さんが少ないコロナ禍の状況を前向きに捉え、工場を今の場所に移転し新たなスタートを切りました。

サトウキビの歴史的背景も関係し
島で唯一の黒糖工場に

奄美群島が薩摩藩の領土となった頃、サトウキビづくりが奄美の地質に合っていたこともあり、米の代わりにサトウキビを年貢として納めていました。今は収穫したサトウキビで自由に黒糖を作れるようになりましたが、サトウキビを原料の状態で製糖工場に収めたほうが収益が上がり、国から補助金を受けられることもあるため、原料の状態で収めている農家がほとんどです。そのため現在は「まごころ製糖」が、島唯一の黒糖工場となっています。「まごころ製糖」が作る純黒糖には、自家製農園で採れたサトウキビのみを使用しています。「自分や子どもたちが食べても安心なもの」を基準に、余計なものは一切入れていません。白糖を入れて甘みを出したり、量を増やしたほうがいいと多くの人から言われてきましたが、「無添加な黒糖を作ることに意味がある」という考えのもと、創業当時から変わらない製法、原料で作り続けています。

徹底した温度管理によって実現
無添加で体にやさしい純黒糖

ここで作る純黒糖には防腐剤を一切入れておらず、生産時には生菓子を扱うような丁寧な温度管理が必要になってきます。例えば湿気が多い雨の日に、黒糖づくりを行うのはタブー。黒糖の水分量が高くなり、痛みやすくなってしまうからです。また防腐剤を入れていない分、賞味期限は3ヶ月程度と短く、1年分を一気に作り置きするといった大量生産も不可能です。在庫がなくなるたびにサトウキビを収穫し、搾り汁を工場で煮詰めて黒糖づくりを行います。 多いときは月に3回程度、この工程を繰り返すことも。奄美群島の一般的なサトウキビの収穫時期は1〜3月ごろですが、父に特別な方法を教えてもらい、1年中サトウキビを収穫できるように栽培方法も工夫しています。その分、本来の収穫時期ではない暑い夏の時期も刈り取る必要がありますが、傷がつかないように機械を使わず、一本一本手作業で収穫しています。

黒糖に新たな美味しさと驚きを
柔軟な視点で商品開発にも挑戦

新しい商品の開発にも、日々力を入れています。現在店頭には、シンプルな純黒糖や生姜入りの純黒糖をはじめ、昔ながらの伝統菓子である「やちむち」、ピーナッツに黒糖を絡めた「やじ豆」、アンダギーに純黒糖蜜がかかった「糖みつアンダギー」といった加工品も並んでいます。ずっと同じラインナップだと飽きてしまうと思うので、お客さんとの何気ない会話や商品の売れ行きから、新しい視点を柔軟に取り入れ、商品化につなげていくように心がけています。保存料、添加物を一切使わない、やさしい甘さがくせになる純黒糖。お菓子としてはもちろん、お料理にも使えるので、消費に困ることがありません。ネットショップでも購入できるので、ぜひ全国の方に自然由来のやさしい黒糖を手に取っていただきたいです。

父が70歳のときに始めた黒糖の生産•販売の仕事を引き継ぎ、沖永良部島で唯一の黒糖工場「まごころ製糖」を運営。自家製農園で育ったサトウキビのみを使った純黒糖や糖みつアンダギーといった加工品の販売も行っている。明るくてパワフルな平そのみさんに会うために、数多くの島民や観光客がお店に訪れる。