たくさんの愛を美味しいものに変えてお届け

11

弓削島愛媛県

Kitchen 313 Kamiyuge

宮畑 真紀

MAKI MIYAHATA

食を通じて何かできたら
それがパン屋をはじめるきっかけ

弓削島に移住してきたのは12年前。父方の実家があった弓削島には、私が小さいころ夏休みや正月休みによく帰っていて、空き家だった家を掃除して過ごすのが習慣でした。休暇を過ごす父方の田舎という存在だった弓削島への移住を決意したのは、自然の近くで暮らしたいという夫の希望に加えて、子どもの年齢的な面からこのタイミングがベストだったためです。移住後、第三子を妊娠出産したことを機に、自分の生業をどうしていくか考えるようになりました。食べることが好きだったこともあり、食を通じて何かできたらいいなと考えていた時に、島で出来た友人の一声がパン屋さんをはじめるきっかけになりました。

登録有形文化をリノベーション
島内初のパン屋をオープン

建物は大正6年建築で、母家や蔵、門塀が「上弓削田坂家住宅」として登録有形文化財に指定。2014年にリノベーションして「Kitchen 313 Kamiyuge」をオープンしました。「313 Kamiyuge」の名前は私たちが暮らす住所から取ったもので、この地に根差して地道にやっていこうという想いで付けました。オープン当初は、オーダーデコレーションケーキやお弁当を作っていましたが、島で出来た友人の「ベーグルが食べたい」の一声から今のベーカリーカフェに。手がけたのは、北海道産小麦やフランス産ドライイーストなどの食材と手ごねにこだわり、オイルを使用しないヘルシーなベーグル。オープン以来、クチコミを中心に、人が人をつないでくれて今までやってこれたと思います。路地にあるのでなかなか見つけられず探して来てくださる人もいて、島の人とお客様がここでつながるコミュニティも生まれています。

ご近所さんからの愛のある温もりを
美味しいものに変えて、次の人へ届ける

手ごねであること、手作りであることにこだわっていますが、地元の食材も多く使用しています。弓削島をはじめ、周辺の岩城島からも野菜や果物を届けてくれる人がいて。私が仕入れたもの以上に「これ使って」と提供してくれるんですよ。それに加えてパンもたくさん買って帰ってくれて。それって本当に愛の塊ですよね!無駄にできないので捨てるところなくしっかり使って、私はその食材をベーグルに挟んだり、マフィンに入れたりしています。ご近所さんからの愛のある温もりを私が美味しいものに変えて、次の人にお届けする。毎週ベーグルサンドと卵サンドを夕食にと買いにきてくれる地元の常連さんもいますし、松山から片道2時間かけて来てくださるお客様もいます。パンはもちろん、楽しい会話を求めて島内外から来てくださる方も多いので、私が作る美味しいものを通じて、たくさんの人の想いをつないでいけたらと思っています。

たくさんの想いを乗せて
パンの移動販売もスタート

コロナ禍になって、お店に来ていただくお客さんの半数が県外からだったこともあり、周りに迷惑をかけないようにしばらく店を閉めていました。そうなるとパンを買えなくなって困るという地元の人からの声もでてきて、車での移動販売をはじめようと思いました。その情報を知った魚島の役場の方から「それなら魚島にも移動販売に来てほしい」とご依頼いただいて。今では月に1度はパンを積んだ車をフェリーに乗せ、片道1時間かけて魚島まで移動販売に行っています。魚島は人口150人ほどで、高齢の人が多いけれどみんなパンが大好き。ご予約いただいた商品のほか、島の人が好きな餡パンを多めに詰め込んで、毎月みんなの笑顔を見に行っています。また、購買がない弓削高校にも、月に1度昼休みにパンの販売に行くんですが、生徒よりも先に先生が買いにくるほど盛況です(笑)。私が作るパンを待ってくれている人がいると思うと頑張れますね。不思議とここで焼くパンが美味しく感じるんです。私が別の場所で焼くのと味が違うんですよね。100年の歴史ある蔵で焼くパンですから、たくさんの想いが詰まっているんでしょうね。

弓削島は小さいころ夏休みや正月休みによく訪れた父方の実家。2011年に家族で移住し、父が残してくれた築100年以上の建物をリノベーションしてパン屋をオープンした。手作りにこだわったパンはもちろん、宮畑さんとの会話を楽しむために島内外から多くの人が店に訪れている。