OTHER 2023.02.15

神話の世界と国境の歴史。
ディープな魅力をめぐる
「壱岐島」自転車旅

九州の玄界灘に浮かぶ「壱岐島」。道中には神話や国境の歴史など、さまざまな発見に富み、コンパクトで走りやすいことから、近年サイクリストから高い人気を得ています。今回はそんな壱岐島自転車旅の魅力をご紹介!

土庄 雄平
(トラベルライター)
商社・メーカー・IT企業と営業職で渡り歩きながら、複業トラベルライターとして活動する。メインテーマは山と自転車。旅の原点となった小豆島、転職のきっかけをくれた久米島など、人生の岐路にはいつも離島との出会いがある。
九州商船フェリーで壱岐島へ。
夜行便にはご注意を

壱岐島へのアクセスは博多港から九州商船のフェリーを利用するのが一般的です。基本的にフェリーは早朝・昼・夜と3便運行しています。筆者は金曜日の仕事終わりに博多港へ向かい、深夜便を利用しました。なんと博多0時5分発→壱岐(芦辺)2時15分着。こんな早朝に壱岐島へ到着してどうするのか。寝る場所があるのか?と思ってホテルを調べたものの、めぼしい情報も得られませんでした。一抹の不安を抱えながらフェリーに乗船したことを覚えています。芦辺港まで到着してどうしたものか...。と途方に暮れかけていたのですが、運よくフェリーターミナルの待合室で休憩させていただきました。こればかりはいつでもOKか分からないので、一度確認してみてください。

神社密度は日本一!?
壮大な神話の世界に触れる

1周約60kmとコンパクトな「壱岐島」ですが、神話の世界が垣間見られます。古事記に記載されている国産み神話にて、天比登都柱(アメノヒトツバシラ)が降臨したところから、壱岐島の歴史は始まります。島自体が動かないように固定するため、神が八本柱で島を止めたという伝説に登場する八本柱のいくつかは今でも現存しており、その代表例が「猿岩」です。また島最古の「月讀神社」ですが、日本書紀内に『月讀神社(京都の松尾大社内)は、壱岐の県主(あがたぬし)の先祖・忍見宿祢(おしみのすくね)が分霊したもの』と記述されており、全国の月讀神社の総本社だということが分かっています。八坂神社や金比羅神社など、壱岐島内には全国各地の名だたる神社と同一名称の神社が高確率することから、この月讀神社を例に考えると、全国各地の神社の起源は、この「壱岐島」ということも考えられるかもしれません。神社密度日本一の島を自転車で駆け抜けながら、壮大な歴史のロマンに思いを馳せることができます。

自転車でつなぐオリジナル
日本史ミステリーツアー

神話に代表されるように、豊かな歴史をはぐくむ壱岐島。島内をめぐる中で、たくさんの貴重な歴史資料に立ち寄ることができます。例えば、島中央部に位置する「原の辻遺跡」。魏志倭人伝の記述から、弥生時代に卑弥呼率いる邪馬台国と二大勢力なした「一支国(いとこく)」の国都だったと伝わる遺跡です。また長崎県最大となる前方後円墳「双六古墳(そうろくこふん)」をはじめとして、壱岐島には250を超える古墳が集中しており、続く古墳時代でも日本史における影響力の高さを示しています。またメインの舞台となるのは古代だけでなく、中世以降においても、いわゆる国境の島として日本の防衛上の拠点であり続けました。2度にわたる元寇の古戦場や供養塔や、朝鮮出兵の拠点となった「勝本城」などの史跡が存在します。小さな島でありながら濃い歴史がギュッと詰まっている。ミステリーツアー的な自転車旅を楽しめることが、壱岐島の醍醐味と言えるでしょう。

山と海。景色変化と
走り応えに富んだ壱岐島の道

歴史文化の色が強い壱岐島ですが、自然豊かであるという点も見逃せません。島の最高所は標高210m程とそれほど高くないのですが、島全体が緩やかなアップダウンに富んでいます。島の西側は複雑に入り組んだ海岸線、島の中央部は「ここが離島なのか!?」と思うほど長閑な田園地帯、島の東側には筒城浜(つつきはま)など南国を思わせる風景まで広がります。島全体を通じて、目まぐるしい景色変化を楽しむことが可能です。また島内を走っていると時折、”瞬間の絶景”とでも呼びたくなる、素晴らしい道の風景に出会うことがあります。予想もせずに現れるため、言葉に言い表せない感動が得られますよ。筆者のイチオシは「猿岩」周辺です。そしてさすがは地形変化の大きい離島。激坂(登坂困難なほど急な坂)も島内に点在しています。島の北東・男嶽神(おんだけじんじゃ)へアプローチする最後の区間は、200mにわたって傾斜20%を超える激坂。脚力試しにはもってこいの高負荷なヒルクライムです。

人情味に触れて名物グルメを
いただく旅の一期一会

素晴らしい旅の思い出を彩るのは、旅先での一期一会ではないでしょうか。壱岐島の地元の方はとてもウェルカム!壁を全く感じさせず、積極的にコミュニケーションをとってくれます。例えば、男嶽神社境内にある「おみやカフェ」。山奥まで足を運んでくれたことを労うために、2018年に神主さんが始められました。そんな人情味あふれるエピソードをもつ境内カフェは、ほどなく壱岐の憩いの場に。男嶽神社のパワーに包まれ、温かい店員さんと全国各地から集まってくるお客さんと過ごす時間は心満たされるひとときです。自家製の神社エールや、軽食のおにぎりの味も、より一層美味しく感じられました。また島の北部・勝本港にある「よしもと食堂」もおすすめ。地元漁師さんが足繁く通う、地元に愛される名店では、お腹いっぱい、地元の美味しい料理をいただくことができます。イチオシは、一本釣りで釣った魚のお刺身・名物カツ丼・天ぷらがセットになったゴールデンスペシャル定食です。店主さんや地元のお客さんとの会話を楽しみながら、まるで地元に帰ってきたようなホッと落ち着く時間が流れています。

自転車旅の拠点なら「ゲストハウスLAMP壱岐」がイチオシ

壱岐島にはリトリートや漁師民宿など素晴らしいお宿が多いですが、自転車旅の拠点にするなら、使い勝手抜群なゲストハウスがおすすめです。中でも筆者イチオシは「ゲストハウスLAMP壱岐」。1900年代前半に建てられた木造3階建ての旧旅館『つたや旅館』を改装した趣深い佇まいは、非日常感と旅情を高めてくれます。また年季の入った建物ながら綺麗にリノベーションされており、ドミトリーも広々として快適。プライベート空間もバッチリで、連泊したくなる居心地の良さを備えています。オプションで、地元の干物&お茶漬け朝食を付けられるのも嬉しいポイント。夜は酒蔵を改装した宿泊者の共有スペースで、翌日どこを走ろうか?一緒に訪れたメンバーで作戦会議。天気が良さそうであれば、自転車をお宿に置いて、エメラルドグリーンの海が待つ「辰の島遊覧船」へ乗船してみるのも良いかもしれません。

COLUMN

天皇の産湯となった名泉
「湯ノ本温泉」で温まる

実はそれほど知られていませんが、島の北西部には「湯ノ元温泉」という温泉街が佇んでいます。このお湯は、壱岐随一のいで湯と呼ばれ、古来より親しまれてきました。その歴史は1700年前にも遡ります。なんと古代の三韓征伐を率いたことで名高い女帝・神功皇后が応神天皇の産湯として使用したという言い伝えが残っているのです。どれをとっても、しっかり歴史が関係している点が壱岐島らしいですね。筆者のオススメは「旅館 千石荘」。蔵壁を思わせる趣ある浴室で、鉄分たっぷりの赤褐色のお湯を楽しめます。身体の芯まで温まり、お風呂を出たあとも、ずっとポカポカが続くお湯の効能に驚くことでしょう。もちろん日帰り入浴も可能です。